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短編  早見先生 (一)

 とっても久しぶりの物語です。
 短編です。

 ファンタジーではありません。
 タイトルは、シンプルにしました。





     (一)


 「この二年十三組は、他のクラスより授業が進んでいるんだよね」
 音楽室の教壇で、早見教諭は言った。
 身だしなみが悪いわけでもなく、趣味がおかしいわけでもないのに、よれっとして見える。
 年齢は、生徒たちの親よりも上だろう。
 小柄で、前歯が乱杭ぎみなのもあってか貧相に見える。

 夏休みまで間があるというのに、
 音楽室には湿気を含んだ蒸し暑い空気が詰まっていた。
 「三組と十五組は普通か。
 このクラスが進んでいるというより、他が遅れているんだな。
 まあ、色々あったから」
 だんだん独り言のようになって、ぼやいている。

 一クラス五十人近い中学生が、
 一年生が十二組、二年生が十五組、三年生が十八組もある。
 この春卒業した学年に至っては、三十六組もあった。
 大急ぎで作られた新しい中学校ができても、このありさまだ。
 戦後のベビーブームと土地開発の相乗効果だ。
 うじゃうじゃといる中学生の団体だ。
 これだけ居れば、何でも起こる。
 それでも、今年度の二年生は手間がかからない方だ。

 「では、授業はここまでにして、今日は話をします」
 生徒たちは、ざわめいて、すっかり気を緩めた。
 音楽の時間だ。
 主要科目と違って、はじめから緊張感などないが、そこはそれ、
 授業じゃないなら、さらに話は別だ。


 戦争で大陸に出兵した時の事だ。
 所属する部隊で、部隊の歌を作ろうという話が出た。
 敵地のど真ん中だ。
 戦意を高揚しようというわけだったと思う。
 そこで、募集が掛かった。
 戦いは下手でも、音楽なら少しはできる。私も応募した。

 のんきな話しっぷりに、生徒は笑った。

 そんなある日、突如司令部に呼び出された。
 まずいことはしてないつもりだが油断はできない。
 世の中には理不尽ということがある。
 叱られるのを覚悟して、恐る恐る出頭した。

 そうしたら、なんと、なんと、
 私の作品が採用されたと聞かされた。
 あまり自信はなかったが、あんなのでよかったんだろうかと、
 他の応募作を見せてもらった。

 格調高く、美しい言葉で綴られたすばらしい作品が、ゴロゴロあった。
 あれっ? 

 言われましたよ。
 『正直に言うと、作詞だけなら君のは並だ。
 もっと良いのがたくさんあった。
 しかーし、
 音譜が付いていたのが、残念ながら、君のだけであった』

 生徒たちは大爆笑だ。

 楽器で伴奏できるように編曲を命じられた。
 軍隊にはいろんな人がいる。
 楽器を演奏できる人も、もちろん居る。伴奏くらいは充分まかなえる。

 どれくらいの時間が必要だと聞かれたので、
 適当に長めに言ってみたら、すんなりと通った。
 出来るまで専念するようにと、訓練も通常任務も免除された。

 自分の作った曲だしね、ほぼ一日でやっつけた。
 後は締め切りまで、ひたすらのんべんだらりと過ごした。
 偉いさんは楽譜の事なんか分からないし、
 編曲にどれくらい時間がかかるかも知らないしね。
 うん、しっかりと怠けた。

 生徒は、授業時間だという事も忘れて、笑い転げる。
 箸が転がってもおかしい年頃だ。

 「大きな部隊だった。
 みんなが私の曲を演奏し、歌ってくれた」
 早見先生の口調は、とぼけたままだったが、
 ほんの少し、うれしそうに見えた。


     つづく


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4445:おはようございます by ☆バーソ☆ on 2020/07/30 at 07:50:57 (コメント編集)

これ、実話を基にしてるでしょう。
人物描写が具体的で、特に教室の人数についての文量が多いです。
私のときも中学は確か十組までありました。
三人称の地の文から、主人公の視点に変わり、最後は地の文で終わるのですね。
相変らず語彙が面白かったですよ。
 よれっとして見える。
 蒸し暑い空気が詰まっていた。
 うじゃうじゃといる中学生の団体だ。
 そこはそれ
 伴奏くらいは充分まかなえる。
 自分の作った曲だしね、
 ひたすらのんべんだらりと過ごした。
 うん、しっかりと怠けた。
 箸が転がってもおかしい年頃だ。(←女子に使う言葉かと思ってました)

私見ですが、ブログの小説は短編に限りますね。
非連続の連載長編だと読むほうはストーリーを忘れてしまいます。
しのぶさんの短編は語り口がうまく、読ませる文章ですね。

4446:おはようございます。 by エリアンダー on 2020/07/30 at 08:36:09

おお、バーソさんに一番乗りを持っていかれた。(笑)

私も「富士山の見つけ方」以来ですかね。
えらい時代設定が古くて戦時中ですか。
生徒が教師に畏敬の念をまだ持っていた時代の教室の雰囲気が
伝わってきます。
「・・・音譜が付いていたのが、残念ながら、君のだけであった」の
「残念ながら」というフレーズが先生の応募作品がいかに
平凡でその上、選者の失望までも表わしていて1分ほど笑いました。
続編を期待しています。

4447:Re: ☆バーソ☆様 by しのぶもじずり on 2020/07/30 at 17:45:38 (コメント編集)

毎度、丁寧なご感想をありがとうございます。

本当らしくするには、具体的な数字を並べて、たたみ込む。
これ、詐欺の手口でもあるらしいですよ。うふふ。

一人称と三人称を、きっちり区別しないと文章にならないのは、
英文(欧米の言語)の宿命です。
日本語は、もっと自由にやっちゃってもいいんじゃないか、なんてことを思ったりします。
上手く通じるかが、一番の問題なわけで、日本語で色々と遊びたい。

カギカッコがうるさくなるのが嫌で、思い切って省略してみました。

4448:Re: 鍵コメ様 by しのぶもじずり on 2020/07/30 at 17:49:22 (コメント編集)

ありがとうございます。
PS. あの魚の唇が清張先生にそっくりですよね。

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