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「信用」という価値観 2


 江戸時代には、
 「日本」のエッセンスともいうべきものが多数生まれている。

 江戸前の寿司・天ぷら、うなぎの蒲焼き、初物などの食道楽。
 伊勢参り、湯治という名の観光旅行。
 歌舞伎や落語などの芸能。
 贅沢禁止令を出されるまでに至った工芸品を含む衣装とファッション。
 瓦版によるゴシップ報道。

 さらに、木版を使った多種多様な出版物。
 古典から好色本までの幅広い物語。
 道中記、地図、細見(ガイドブック)
 料理本に錦絵。
 マニアックなところでは、算術の問題集がベストセラーになっていたりする。
 
 特筆すべきは、それらはほとんど庶民が作った文化だということだ。

 今でこそ寿司もうなぎも高級料理だが、
 江戸時代は、天ぷらや蕎麦と同じように屋台で売られていたらしい。
 現代ののファストフードのような感覚だったのかもしれない。
 <女房を質に入れても初鰹>と言う言葉が残っている事から見て、
 庶民が食を楽しんでいたのだろう。

 ヨーロッパでは、王侯貴族がスポンサーになって、
 文化文芸を庇護したのとは様子が違う。

 最も、スポンサーになる余裕が無かったのかもしれない。
 江戸時代の皇族や公家が貧乏だったというのは定説である。
 さらに、幕末に来日したヨーロッパ人が、
 支配階級のはずの武士が貧乏なのに驚いた、と書き残している。
 支配層をそっちのけにして、庶民がやらかしたって感じだろうか。

 
 そんな時代に、商人の倫理が発達したという説がある。

 興味深い逸話がある。

 さる大商人に評判の息子がいた。
 商才に長け、やり手の若者だったという。
 あの跡継ぎがいれば店は安泰だ、と商売仲間からうらやましがられていた。

 ある時、得意先の大名家に大きな祝い事があった。
 件の若旦那と番頭が、祝いの品を持参して大名屋敷を訪れた。
 口上と共に祝い品を届けて帰ろうとした時、
 番頭が、あっと声を上げた。
 店の名前を書いた札が手元に残っている事に気がついたのだ。
 祝い品に付けるはずだった。
 各方面から、様々な品がたくさん届けられている。
 名札が無ければ、どこからの祝いなのかが分からなくなるだろう。
 無駄足になってしまう。

 もう一度同じ品を用意して届け直すしかないか。
 番頭が気落ちしていると、
 若旦那は名札を手に取り、引き返して家中の侍に声をかけた。
 「おいとましようとしたところ、お廊下にこれが落ちておりました。
 私どもが持参した品に付けておいたものです。
 これこれこういう品でございます。
 お手数ですが、付け直していただけませんでしょうか」

 「これは、とんだ不調法をいたした。必ず請け負った。
 せっかくのご厚情に申し訳ないことをした」
 と侍は恐縮した。

 店に帰り着いた番頭は、自分の失敗と若旦那の機転を主人に報告した。
 主人は、若旦那を廃嫡した。
 お客様に嘘をついた上、恥をかかせるような者に店を任せられない。
 商売の力量と店の信用を秤にかけて、店の信用をとったのだ。

 こういう考え方が、広く商人に行き渡った形跡があるらしい。
 商人は信用が一番。

 だから日本では、契約書が発展しなかった。
 要点のやり取りだけで、概ね取引に問題がなかった。


 海外で契約する日本人は、契約書の分厚さに吃驚するらしい。
 細かい事までびっしり記載されていて、読むだけでも大変だと聞いた事がある。
 素人だと手に負えなくて、弁護士などの専門家にチェックしてもらったりもするらしい。

 海外の事情には詳しくないので想像だが、
 悪名高いユダヤ商人が築いた商習慣なのではなかろうか。
 とにかく全部書いておかないと安心できない。
 信用できない。

 騙し騙された歴史が垣間見えるような気がする。
 うん、気をつけよう。

「信用」という価値観★

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3947: by sado jo on 2018/01/20 at 16:05:48 (コメント編集)

商人の鑑と言えば、蜜柑船で財を成した有名な「紀伊国屋文左衛門」ですが、江戸で大火事が起きたと聞くや否や、手当たり次第に材木を買い占めたと言う逸話も残っています。
善し悪しは別として、機に乗じ、人の足元を見て儲けるのが商売人の本質だと言えばそうなります。
しかし例えそうであっても、前述された如く下記の様に人の恨みを買う商売には疑問が残りますね~

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180119-00000556-san-bus_all (産経ニュースより)

3948:Re: sado jo様 by しのぶもじずり on 2018/01/20 at 18:08:08 (コメント編集)

一つ前の記事で「外貨預金」と書きましたが、「外貨保険」もそうでしたね。
書き忘れました。
ありがとうございます。

3949:信用第一 by miss.key on 2018/01/21 at 11:45:18 (コメント編集)

とは言え、信用できない相手に信用で応じても騙されるだけ。相手を見て対応しなければ正直者が場過を見るになってしまいます。世知辛い話ではありますが、うん、気をつけよう。

PS:契約そのものが意味の無い国が隣に三っつほどありますので、そこには特に気をつけよう。

3950:Re: 信用第一 by しのぶもじずり on 2018/01/21 at 17:47:29 (コメント編集)

miss.key 様 こんち。
ほんと世知辛い世の中ですこと。
契約さえ信用できなくなったら、人類共同体は わやですわ。
怖いねえ。

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