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クロウ日記 八

 大当たりだった。 そんなことは当ってなど欲しくはないが、 調べなくてはならない。
 表面上は 「中務卿の犬っころ」 としての無害を装い、
 その実 優秀な頭脳のありったけを駆使して 調査をすることになった。
 ことは予想以上に大きかった。

 先王の時代、 ウケラの各所で 土地が強制的に 召し上げられた。
 普段は公園として利用し、 災害などの有事の際には 避難場所にするためだ。
 ついでに 都の整備も兼ねた大規模な計画で、 泣きながら立ち退かされた者も 大勢出た。
 大騒ぎの事態だったが、 そのおかげで ウケラの町並みは、 見違えるほど 美しくなった。
 その公園に絡んだ策謀が 進んでいた。

 図面上、 公園の敷地は はっきりと区分けされているが、 現地に 仕切りは無い。
 美しい木々が植えられ、 非常時には防火用水に利用できる池も、 散策に適した風景の一部になって、
 ただただ 広い土地があるだけである。
 公園整備の名の下に、 いくつかが 不正に下げ渡されようとしていた。

 事情を知るにつれ、 カケルは 怒りを覚えた。
 陰で多くの人間が涙を飲み、 やっと作られたものが、
 一握りの悪人の私服を肥やすために 利用されようとしていた。
 けちな贈収賄事件 どころではない。
 いつになく本気になって 調べた。

 すると、 それまで表面に出ることのなかった大物が 浮かび上がってきた。
 おおよその筋は読めたが 大物だけあって用心深く、 確たる証拠をつかませてはくれなかった。
 何とか未然に防ぎたいが、 それには 一手足りないのだ。

 謀略は 静かに潜行したまま、 まもなく実行に移されようとしている。
 カケルは 焦りだした。

 気落ちしそうになる心を支えて、 糸口を探していたカケルの目に、
 一人の哀れな男の姿が見えた。
 いつぞや カケルに声をかけてくれた 小役人だった。
 とんでもないことに関わってしまったと、 やっと 気づいたらしい。

 見た目どおりの小心者らしい彼は、 気の毒なほどにうろたえ、 落ち込んでいた。
 哀れだった。
 その男を突付けば、 糸口の手がかりを 探りだせないだろうか。
 だが、 失敗すれば こちらの正体をさらす危険もある。

 どちらに転ぶかは 賭けだった。


 仕掛ける好機を探して観察していたある日、
 足取りも重たげに 裏庭に向かう男の後を 追ってみた。
 裏庭は 文字通り 雑木と草が生い茂っているばかりで、 訪れる者など めったにない場所だ。
 男は よろよろと進み、 草に埋もれるように 頭を抱えてくず折れた。

 カケルが踏み出そうとしたとき、 雑木の陰に立つ人がいた。
 驚いたことに クロウだった。
 一睨みでカケルを押しとどめて 男に近づく。
 何が起こるのか知らないが、 カケルは見なかったことにしたいと思い、 裏庭に背を向け、
 他の人間が近づかないように 見張りに立った。

 ややあって、 男が飛び出してきた。
 カケルを見て、 慌てて取り繕うように息を整えると、 速足で去って行く。

 ブブーっ、 プ、 スー、 ビ――ッ、 ズズズズッ、
 裏庭から 奇妙な音が聞こえた。

「何をなさって いるのですか」
 音源は クロウだった。
「草笛。 案外難しい」
 カケルは 草笛なら 子どもの頃から得意だ。
 音の出しやすい葉を選んで渡し、 吹き方を教え始めた。

「一向にうまくならぬ。 カケルは 教え方が下手だ」
「お言葉ですが、 子どもたちには 私の教え方はよく分かる と評判が良かったです。
 クロウ様が下手なだけです」

「世辞だろう。 子どもだとて、 世辞くらい知っている」
「……くっ、 しごきますよ」
 上達の見えないクロウに、 草笛を本気で指導し始めたものの。

「才能が ありません」
 投げ出 そうとした時、 小役人が 戻ってきた。
 重そうな包みを抱えている。
 出てきたのは 日記だった。
 何冊もある。

 耳障りな草笛を気にする余裕もなく、 男は わさわさと日記をあちこちめくり、
「あ、 ああ、 ありました。 この日でございます」
 震える手で 日付を指した。
 ぎっしりと毎日書き綴られた 男の日記は、 よほど自身について書くことが無いのか、
 上司や同僚の言動ばかりが 事細かに書き記されて、 職場の業務日誌と間違えそうなしろものだ。

 覗き見たカケルは 目を見開いた。
 次々とめくってみていくと、 知りたかったことが ここかしこに見え隠れする。
 書いた当人は まるで分かっていないようだが、 手がかりの宝庫だった。

 何冊もある日記の日付を確認していくと、 一冊だけ 昨年のものが混じっていた。

「あ、 あ、 すいません。 あわてて 余計な物まで紛れていました」
 クロウが草笛をやめて、 それを手に取り、 ぱらぱらとめくる。

「これは面白い。 この前後のものを全部持ってくるように。
 その後は病気になれ。 寝付いて出仕がままならない。
 良いな。 命が惜しかったら、 すぐに寝込んだほうがよいぞ」

 完全な脅しである。 その一冊を カケルにぽんと放った。

 悪巧みは そんなに以前から始まっていたのか と読みすすめて、 カケルの手が止まった。
 思い当たる事柄の端切れが そこにあった。
 ある意味、 悪巧みは すでに始まっていたのだろう。
 前哨戦が カケルの追い落としである。
 確かに カケルが官吏の座にいたなら、 こんなに苦労しなくても 気づく立場にあった。
 後任が 今回追い詰めようとしている大物の息子だ。


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コメント
2203:久しぶりですね。 by 想馬涼生 on 2014/06/08 at 23:32:19 (コメント編集)

まずどの時代、どの国にでも利権なるもの存在し、利益を奪っていく輩がいるもんですね。

カケルはその事に憤りを覚え、そういう人達に怒りがあるのもわかります。

カケルがクロウに対してのつっこみは見事ですね。上の方でもちゃんと意見が言える人が必要ですからね。

大物の息子?これはやっかいですね。現代社会でもそういう方々の親族に対し、公安は圧力がかかる場合がありますが、果たしてカケルはどう動くのかが注目ですね。

私のブログに訪問されたようで、足跡が残ってました。
それを観た時、そういえば姓名判断してもらって以来、ここには来てなかったなあと思いだし、そういえばクロウ日記もまだ途中だと思い、久々に来ました。

姓名判断についてですが、今年に入っていい感じです。山もそれなりにありますが、以前の名前の時より良くなりました。姓名判断してもらって良かったと思ってます。

私も色々と忙しく、じずりさん含め、他の方の訪問もほとんどしてない状態なので、今度ここに見えられるのはいつになるかわかりませんが、目標はクロウ日記を読み終え、次の作品を読む事です。
何分遅読ですが、じっくり読ませていただきたいと思ってます。

2204:Re: 久しぶりですね。 by しのぶもじずり on 2014/06/09 at 17:27:36 (コメント編集)

想馬涼生様 いらっしゃいませ。ご無沙汰していました。

お忙しそうなのに、また来て頂き、
その上、丁寧なコメントを下さってありがとうございます。

姓名判断をしましたっけ。調子が良いならなによりです。
ご無理をせずにがんばってください。


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