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赤瑪瑙奇譚 第九章――11



 ウルク、 ミノセ、 二人が、 ともに息絶えた時、
 雨が 止んだ。

 勝率四割でも、 部下の命を 誰よりも惜しんだ王子は、
 生涯にただ一度の勇姿を 見届けられることもなく、 庭の隅で 命を終えた。
 伝記にも残らず、 詩に讃(たた)えられることのない 英雄の死だった。


 ほとんどの反乱兵が捕らえられ、 雨も上がった時、
 ユキアの額にかかる 『マホロバの星』 が一際輝き、 晴れ渡った天空の星が、 明るく輝いた。
 砂をまいたような 星の一つ一つが、 まるで『マホロバの星』 のように、 地上を照らし出した。

 金剛石が意味するのは 『平和』。

 城下が襲われることは なかった。
 マサゴ王 トコヨベの軍が、 町外れに潜んでいた反乱軍を 一掃していたのだ。
 星の明かりが、 それを助け、 一人残らず 反乱兵は捕らえられた。



 婚儀は 改めて執り行われることになった。

 反乱の後始末に一段落がついた ある日、
 調理場で 忙しく働くイヒカの元に、 カムライと 砦の隊長が来て、 外に連れ出した。

「イヒカ、 元気か」
「はい、 殿下。 あっ、 隊長さん、 お久しぶりです」
「おお、 元気そうで何よりだ。 今日は、 琥珀のことで 話しに来た」
「もしかして、 持ち主が 分かったんですか」
「うん、 分かった。 だが 死んでいた」
 イヒカが うなだれた。

「その男は、 装飾としてではなく、 お守りに付けていたそうだ。
 奥さんが 無事に戻れるようにと、 自分のものを付けてくれた、 と 嬉しそうに 話していたようだ。
 だが、 その奥さんも すでに この世にはいない。
 男には 息子がいた。
 だから、 勇敢な戦士だった男の、 その息子に 渡そうと思う」
「はい。 形見だね。 よろしくお願いします」

 隊長は、 イヒカの手を取り、 琥珀を そっと握らせる。
 イヒカは、 びっくりして 目をまん丸に見開いた。

「おまえの父親の形見だ。 大事にしろ」
 琥珀を握り締めたイヒカの目から、 大粒の涙が落ちた。
 隊長が抱き寄せて、 背中を優しくなでる。

 しばらくして ぐいと腕で涙を拭い、 顔を上げたイヒカは、 カムライに言った。
「ねえ殿下、 立派な宝玉には 名前が付いていますよね。 これに名前を付けてもいいかな」
「いいんじゃないか」

「よし、 決めた。 名前を付ける。 うーんと、 『天使の……』」
「おお、 天使の?」
「茶色いから 『天使のウンチ』」
 突然 突風が襲った。 あたりのものを吹き飛ばす。
「イヒカ、 怒っているんじゃないのか。 違うのにしろ」
「じゃあ、 『天使のおなら』」
 暴風が 吹き荒れる。
「イヒカー、 早く下ネタから離れろ。 城下が吹き飛ぶ」

 何回か 試行錯誤を繰り返し、 琥珀が納得した名前に行き着いたのか、 風が収まった。


「イヒカ、 これからは、 幸せになろうな」
「はい」

 人間(ひと)は、 たぶん、 幸せになるために 生まれてくる。

 穏やかな風に包まれて、 コクウの空は 青く澄み渡っていた。



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