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赤瑪瑙奇譚 第九章――10



 狙いを定めて 放たれた矢は、
 豪雨を切り裂いて 飛び、
 上がり始めた炎を 火皿ごと 雨の中に はじき飛ばした。

 白い煙を引いて 地面に落ちてゆく。
 あきらめきれないように、 手を伸ばして 火皿を追う反乱兵の目に、
 城の兵士たちが、 狼煙塔めがけて やってくるのが見えた。


 狼煙塔の見える場所に ウルクがいた。
 炎の上がらぬ狼煙塔を睨み、 そして、 目を瞑(つむ)った。
「こうなったら、 せめて カムライだけでも 殺すか……」

 踵を返そうとした時、
 暗く煙る雨の中に、 朧(おぼろ)に 白い姿があった。
 ウルクは 思わず近づこうと、 降りしきる豪雨の庭に 足を踏み出した。

「ウルク、 あなたを殺すのは、 私だ」

 整えられもせずに 短く刈られた髪、
 肌着かと思うほど 薄い衣、
 長い剣を下げ、 がっしりと立つ男だった。
 コクウ王国第二王子、 ミノセ がそこにいた。

「おまえには 無理だ。
 だが、 弟たちの仇、 カムライを倒す前に、 貴様を血祭りにあげるのも 一興だな」
 ウルクは、 言いながら さらに近づく。
 二人の間には、 まだ 豪雨が立ちふさがっていた。

「あなたは 勘違いをしている。 あの戦いを指揮していたのは、 この私だ」
 ウルクが 目を見開いて、 ミノセを見た。
「まさか……」

 ミノセは、 微笑んで 続けた。
「そう、 私は 何をやっても 兄にはかなわない。
 だから、 戦も 負けないように考えた。
 勝てなくても 負けないように」

「ふん、 臆病者のやり方だな」
「その通り、 私は とても臆病なのだ。 勝率は 四割そこそこかな。
 でも 負けても 損害は最小限だった。 それが私のやり方だ。
 あなたのように、 辛く悲しい思いは、 私には耐えられないことが、 自分でも分かっていたから、
 頭が割れるほどに 作戦を考えた。
 あの戦いは 珍しく 大勝利だった」
 ウルクが 歯軋りをしながら、 じりじりと間合いを詰めてゆく。

「でも、 駄目だった。
 一番大事な人を、 わたしも 戦(いくさ)で失くした。 あなたの軍と戦った時だ。
 あなたが 彼に 止めを刺したらしいと、 後から聞いた。
 恨んでいるわけではない。 戦だからね。
 でも、 悲しくて 仕方がない。 やりきれない。 あきらめることなんか 出来ない。
 だから、 あなたの思いを 一番理解できる私が、 あなたを殺すに ふさわしい」

 ウルクが ついに 剣を構えた。
「勝率四割が 何をほざく。 ぶった斬ってやる」
 ウルクが 剣を振り上げると、 腕から 大量の水しぶきが 飛び散った。
 体が 重い。
 雨を吸い込んだ衣装と 長い髪が、 意外な重さで のしかかっていた。

「ふふ、 言ったでしょう、 私は弱いから、 負けないように 作戦を考えるって。
 何のために 長々と話をした と思っているのですか」
 短い髪と 薄い衣の ミノセが、 挑発する。

「この程度で 勝てると思うな! 
 貴様…… こんな 生ぬるいやり方で 本当に 平和になると 思っているのか。
 三つの国の そこかしこで、 どれだけの恨みが、 今なお くすぶり続けているか、 知らぬはずは あるまい。
 諦めきれない輩は 続々と出てくるぞ。
 三国同盟など 机上の空論だ。 力で抑えなくては 永遠に 平和など来ぬ!」

 初めて 本音を漏らしたウルクが、 渾身の力を込めて 斬りかかった。
 ミノセは 避けない。
 ウルクの剣を その身に 平然と受け、
 そして、 ウルクの心臓を 一息に刺し貫いた。

 初めて、 損害を覚悟の 捨て身になって、
 勝つことを 選んだ。

「兄……う……え……なら、…………やる」


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コメント
308: by ポール・ブリッツ on 2012/07/18 at 18:56:28 (コメント編集)

勝率四割引き分け三割負け三割だとしても戦史に残る立派な名将だと思うであります。惜しい人材でありました。

309:Re: ポール・ブリッツ様 by しのぶもじずり on 2012/07/18 at 19:29:16 (コメント編集)

そうなんですよ。
立派な戦績なのですが、カムライとウルクが並外れているので、ワリ食っちゃったんですね。

310:はじめまして by 星月冬灯(ほしづき とうか) on 2012/07/19 at 14:40:43

コメント有り難うございます^^
私もいつも拝見させてもらってました。

毎日楽しみに読ませてもらってますww

また遊びにきますね。
これからも宜しくお願いします^^

312:Re: はじめまして by しのぶもじずり on 2012/07/19 at 21:45:36 (コメント編集)

星月冬灯様 コメントをありがとうございます。
こちらこそよろしくお願いします。

私もまた伺いますね。
これからも、お気軽にコメントくださると、喜びます。

314:んばんは。 by かじがやごろぉ。 on 2012/07/20 at 00:19:40

えへへ。
こんばんは。
アツイですね。
気温も貴方のブログも。いいです。

負けるな!応援してます。ごろぉ。

315:Re: かじがやごろう様 by しのぶもじずり on 2012/07/20 at 00:56:53 (コメント編集)

コメントと応援をありがとうございます。

暑い季節にすいません。

316: by lime on 2012/07/20 at 01:26:36 (コメント編集)

おお、気になっていたミノセ。
鮮やかに登場して、鮮やかに散る。
美しいです。
(散っていく人ばかりに魅力を感じてしまうのは、癖です)

※lime様へ 私の操作ミスで、せっかくのコメントが変な場所に入ってしまいまったので、再録させて頂きました。

317:Re: lime様 by しのぶもじずり on 2012/07/20 at 01:30:48 (コメント編集)

せっかく気にして頂いたのに、また殺してしまいました。

ウルクに引導を渡すためには、インパクトのある登場人物を用意したかったのですが、
納得して頂けるキャラだったでしょうか。
美しく散ったと感じて頂けたなら、うれしいです。

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