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マルペケ問答 イソップ編

 「明けましておめでとうございます。
 旧年中は大してお世話になりませんでしたが、
 縁起物でしょうから、とりあえず」
 ペケ子の部屋に、マル子がやってきた。

 「いらっしゃ〜い」
 ペケ子は今年も寝正月である。
 めんどくさそうに起き上がって、マル子を招き入れた。
 手みやげのケーキを素早く手に入れて、お愛想を言う。
 「昔話の読み聞かせは上手くいってるの?」
 せっせとケーキを並べて、フォークを握り、臨戦態勢だ。
 いろんな種類が一つずつ。
 舌なめずりをしたペケ子は、狙いを定めると、
 かかれ! とばかりに突き刺す。

 「良いのを思いつきました。イソップ童話です」
 マル子はニコニコして座った。
 日本昔話には散々いちゃもんをつけられた。
 これなら文句は言わせない。ドヤ顔である。

 「あ〜あ、変なものを拾ったねえ」
 ケーキにむしゃぶりつきながら、しかめっ面のペケ子に、
 「いやいや、拾ってませんから。
 評判のいいケーキ屋さんから買ってきましたから」
 人が良いマル子も、むっとした。

 「ケーキは美味しい。問題はイソップ」
 「ええ〜っ。『うさぎとかめ』なんか良い話じゃないですか。
 どこが気に入らないんですか」
 「話としてはよくできているかな。
 実際のカメは案外に素早いとしても、
 ウサギは、普段はのんびり動くとしても。
 でもねえ、あの話に登場するウサギもカメも好きになれない。
 カメを馬鹿にするウサギって、どうなんだろ。
 うたた寝しているウサギを知らんぷりで追い抜くカメも、なんだかなあ。
 友達にしたくない」
 思わぬ反撃に口をつぐむマル子であった。
 言われてみれば、ウサギもカメも競争しただけで終わっている。
 二匹の間に、関係改善はみられない。
 何のための競争だったのだろう。

 「イソップ童話ってさ、底意地が悪い感じがするよね。
 例えば、ツルがキツネを招待して、細長い壷でスープを出す話は知ってる?」
 「いいえ、マイナーな話なんじゃないですか」
 マル子の素っ気ない返事にひるまず、ペケ子は続けた。
 「ツルは細長い壷にくちばしを突っ込んで、美味しそうに飲んだけど、
 キツネの口はスープまで届かない。
 飲めなかったキツネは、お返しにツルを招待して、
 浅い皿にスープを出し、意趣返しをするんだけどさ。
 はじめにキツネが浅い容器に変えて欲しいと言えばすむ話だろ。
 キツネったら、面倒な手間をかけるよね」
 「確かに」
 マル子もケーキに手を伸ばした。
 「うん、美味しい。甘〜い」
 幸せそうな顔を見て、ペケ子は残りのケーキをガン見する。
 「無理に食べなくても、私が全部片付けるから」

 「そういえば、キツネといったら、
 酸っぱい葡萄の話の方が有名ですよ」
 マル子は気にしない。
 「ああ、手が届かない葡萄を、酸っぱいに違いないと決めつける話ね。
 手伝ってくれる友達が居ないキツネなんだろうね。
 マル子の踏み台くらいにはなってやるよ。
 マル子なら分け前をくれそうだし。
 だから、またケーキをおごってね」
 しっかりと意地汚いペケ子である。

 「踏み台一回で、色々とせしめようとしていますね。
 『アリとキリギリス』は知ってますか。
 もっと地道に生きる気はないんでしょうか」
 「おお、あのアリひどいよね。
 冬になってボロボロになったキリギリスを、ボロクソに言うんだもん。
 生き方はそれぞれ。分かってないよね」
 「キリギリスみたいに面白おかしく生きる気満々ですか」
 「うん」
 素直に認めるペケ子であった。

 「とことんイソップが嫌いなんですね。
 『金の斧と銀の斧』はどうですか。
 『北風と太陽』という良い話もありますよ」
 マル子は諦めない。 

 「どっちも神様が出てくるねえ。
 大事な商売道具を湖に落としたドジな木こりに、
 見当違いの金の斧や銀の斧を出してみせた神様は、
 何がしたかったんだろう。
 プロの道具をなめてるよねえ。
 木こりをおちょくってるよね。
 欲を出した別の木こりからは、商売道具を取り上げちゃうしさあ。
 人間をもて遊ぶのが趣味だったのかいな。
 『北風と太陽』では、神様たちが力自慢の末に、
 関係のない旅人がひどい目に遭わされる。
 旅の途中で冷たい強風にあったら、下手をすれば命がけだよ。
 突然のカンカン照りも困る。
 体を保護する外套も、荷物になれば負担だ。
 かわいそうな旅人さん」
 「……」

 このまま言い負かされるのは癪だと思ったマル子は、
 一所懸命考えた。
 昔話や童話についてはド素人じゃない、という思いもある。
 幼稚園の先生なのだ。
 「昔話には残酷な話も多いじゃないですか。
 でもイソップは残酷な感じがしないです。
 子どもに聞かせたいです」
 最近の絵本や昔話の本では、残酷なシーンを書き換えたものが多い。
 カチカチ山の狸は、お爺さんに婆汁を食べさせない。
 ひどいのになると、ウサギは狸を殺さない。
 一寸法師は、お姫様を無実の罪でハメたりしない。
 教育的配慮という奴で、原作を改ざんしている。
 その点イソップは改ざんの余地がない。

 「う〜ん、でもねえ、ひねくれている気がするんだよねえ。
 幼い子には聞かせたくない。分別がついてからにしたい。
 人生の教訓にするには、ちょっとね。
 ほら、イソップは奴隷だったらしいじゃない。
 きっと、器を変えて欲しいと言えない立場だったんだろうね。
 届かない葡萄がいっぱいあったんだろうねえ。
 生き方を選べなかったんだろう。
 神様は、人間を玩具にしているとしか思えなかったのかも。
 そう考えると、分からんでもないかな」

 イソップにとって、ウサギとカメは、
 最初から最後まで、相容れない存在でしかなかったのだ。

 ケーキが一つ残っている。
 マル子とペケ子が同時に手を出し、ペケ子が勝った。
 「ちぇっ」
 マル子が悔しがった。
 手みやげを持ってきた客に、この扱いである。
 しかし、困った時に踏み台になってくれる気はあるらしい。
 イソップよりは幸せなのだろう。
 マル子は、そう思うことにした。


マルペケ・お父さんたちのゲーム★★★茶飲み話

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コメント
3424:こんにちは by canaria on 2016/01/13 at 17:16:55

しのぶもじずり様、こんにちは。
先日はご訪問、コメント誠にありがとうございました。

うんうんと共感しながら読ませて頂きました。
確かにイソップ童話って独特の後味を持った作品ばかりですよね。

軽妙な語り口のマル子とペケ子のかけあいに、
子どもの頃感じていた何ともいえないもやもやの正体は
そういうことだったのか……と思わされました。

作品、たくさん書かれていてすごいですね……!
これからゆっくり読ませて頂きますね。
それでは、失礼致します^^

3425:Re: こんにちは by しのぶもじずり on 2016/01/14 at 12:01:06 (コメント編集)

cameriaさん いらっしゃいませ。
さっそくのコメントをありがとうございます。
読んでいただけてうれしいです。

cameriaさんのとことはタイプが違いすぎる(笑)でしょうが、
これからもどうぞよろしく。

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