RSS

クロウ日記 七

 そして、 クロウが予想したとおり、 宮中の魑魅魍魎が 動き始めた。

 カケルが無口を通したのは、 声から 正体が知れるのを恐れた為だったが、
 それが 意外な効果を発揮した。
 まともに口もきけない愚か者に見られ、 ほとんど 犬並みにしか関心をもたれなかったのだ。
 
 都合のよい仮面に隠れて、 不正の証拠は 次々と 簡単に手に入ってきた。
 時には、 棚からぼた餅が落ちてきたかのように 簡単に。

 すべてをクロウに報告したが、 動かない。
 訳が分からなかった。
 不正を働いた官吏の証拠は 充分なはずだ。 このために カケルを連れてきたのではなかったのか。
 ここまで 慣れないことに頑張ったというのに、 ただの気まぐれの 遊びだったとでもいうのか。

(私は……弄(もてあそ)ばれたのか……)
 少々ずれた焦燥が 心を焦がす。



 さらに三月、
 それでもまだ続けろ としか言わないクロウに、 カケルは逆らえないでいたが もう限界だった。

「大掃除の仕上げは まだなのでしょうか。 私の働きが 足りませんか」
 思えば、 カケルのほうから積極的に話しかけたのは、 初めてのことだった。

 クロウは 例によってぐいと引き寄せ、 カケルをひたと見据えて 答えた。
「まだだ。 そなたの件について 確たる証拠が足りない」
「それを持ち出さなくても、 他の件で 不正の証拠は有り余ってございます。
 充分 一網打尽に出来ます」

 初めての明確な反論を聞いて、
 クロウは また何かを堪えている風に しばらく押し黙って 見つめていたが、
 ややあって、 強い口調で 言い聞かせるように 返答を返した。

「私が暴きたいのは カケルの濡れ衣なのだ。 ケチな贈収賄事件 ではない。
 そんなことも 解らないのか」

 カケルは 何故だか 胸がどきんと鳴った。
 それまで 己を保つことに 苦心を重ねてきた。
 いつでも冷静な判断が出来るようにと 工夫や修行を欠かさなかった。
 ここに来て それらが無駄になったような気がして 仕方がない。
 クロウの前に出ると、 己を保つことも、 冷静でいることも 難しくなった。
 殺風景なほどに整理整頓された執務室の中で、
 カケル一人が どんどん取り散らかっていくようで 情けなかった。

「続けろ。 命令だ」
 顔がくっつきそうなほどの距離で 念を押され、
「はい」
 消え入りそうな声で 返事をしてしまう自分が、 悲しかった。

 カケルは 調査の続行を命じられたものの、
 具体的な当ても思いつかず、 行き先も決めずに宮中を歩いていると、
 後から 声をかけられた。

「落ち込んでいるようだが、 どうかしたのか」

 それ以上出世しそうにない 小役人だった。
 中務省ではない。 公園の管理をしていたはずだ。
 自分では いつもどおりに振舞っているつもり だったが、 思った以上に 落ち込んでいたらしい と気づいた。
 つまらないことで人目を引いては任務に差し支える。
 気をつけなくては と気を引き締め、 ゆっくりと 頭(かぶり)を振った。

「そうか。 わたしが中務卿に直接お会いすることはないが、 噂では 変わったお方だと聞いている。
 おまえは よくやっているようだ。 他の者なら、 とっくに逃げ出している頃だろう。
 気に入っておられるに違いない。 気落ちせずに 頑張りなさい」

 カケルは 複雑な思いで、 ゆっくりと頭を下げた。
 その官吏は、 調査対象に入っていた。
 たいした職ではないから、 はたらく悪事も 些細な収賄だ。
 ちょっとした便宜を図る見返りに、 付け届けを貰う程度であるが、
 立派に規則違反であることに変 わりはない。
 優しい男のようだが、 優しさは長所にもなれば 時に短所にもなる。
 流されやすく、 目上には逆らえない。

 カケルは 内心でため息をついた。

 うんうん と一人頷いて去って行く官吏の 後姿を見送って、 あれっ、 と思った。
 向かった先が 不思議だ。
 何故 あんなところに用があるのだ。 おかしい。
 しかも 心なしか そわそわしている。 どうもきな臭い。
 カケルに 目的が出来た。


戻る★★★次へ
トラックバック
トラックバック送信先 :
コメント
▼このエントリーにコメントを残す

   

プロフィール

しのぶもじずり

Author:しのぶもじずり
とりあえず女です。
コメントを頂けると、うれしいです。

最新記事

最新コメント

カテゴリ

検索フォーム

いらっしゃ~い

らんきんぐ

よかったら押してね
 にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ
にほんブログ村 小説ブログ エッセイ・随筆へ にほんブログ村 小説ブログへ
 

リンク

このブログをリンクに追加する   リンクフリーです

おきてがみ

FC2以外のブログからお越しの方、クリックで足跡が残せます。
「ことづて」は機能していませんので、ここにはコメントは残せません。

RSSリンクの表示

QRコード

QR

月別アーカイブ

フリーエリア