2014年01月のエントリー一覧
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馬十の辻に風が吹く 第二章-1
作戦もなく、 努力を払うこともなく、 保護すべき対象の二人に 懐かれてしまった。 桜子皇女は呑み込みが良く、 教材として用意した書物を読ませるだけで、 とんとんと吸収していく 手間いらずの教え子だった。 時折してくる質問も 的確である。 たまに、 真咲にも答えられないような鋭い質問もしてくる。 飛丸の教育係をしていて良かったと思うのは そういう時である。「よいところに気がつきました。 「せっかくです...
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馬十の辻に風が吹く 第一章―8
「真咲だ」「新しい先生です。 花のことを教えてもらっていました。 白くて とても小さな かわいらしい花を見つけたのです」 幸真千と桜子が 口々に紹介した。「それはそれは、 私も見てよろしいですか。 皇女様が見つけられた花を、 ぜひ私も拝見したいものです」 宰相が にっこりと華やかな笑みを浮かべて近づいてきた。 豪華絢爛な笑顔である。 桜子が こころなし頬を染めた。 十一歳にまで色目を使うんじゃない! と...
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馬十の辻に風が吹く 第一章―7
「残念です。 私に腕力があれば、 美しいあなたを抱きかかえて、 足元を汚させることもないでしょうに。 悲しいかな 右腕に力が入りません」 葦若の宰相は、 ふと顔を伏せて うれい顔を作る。 はたから見ていると、 いかにも わざとらしいが、 式部は気にしない。 心配をしながらも、 うっとりとした様子だ。「では 噂は本当でございますの? 幼き頃、 賊(ぞく)に襲われて 右肩を矢で打ち抜かれたというのは。 お命も危...
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高級な万華鏡
作家さんが作った高級品の万華鏡です。 筒が太くてしっかりできてます。 どういう仕掛けなのか、ピントが合う場所が決まっているようで、 離れた物を覗くことはできません。 カメラをズームして、全画面になるように撮ってみました。 中に入っているのは、透明なキラキラではなく、ドライフラワーなのです。 シックです。【今週の万華鏡】★★★【今日の万華鏡】...
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馬十の辻に風が吹く 第一章―6
真咲は 草叢の後ろ側に回ってみた。 皇女と皇子は 恐れる風もなく、 一緒にくっついてくる。 そこには 池に流れ込む小さな流れがあり、 たどってみると 内裏を囲む築地垣(ついじがき)に突き当たった。 垣には取水口の穴が切ってあるが、 頑丈そうな格子がはまっており、 無論、 野犬など通れそうにない。 ついでに言うと、 河童も通れそうになかった。「あら、 あんな所にも お花が咲いているわ」 桜子は嬉しそうに 草叢...
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馬十の辻に風が吹く 第一章―5
「余は幸真千である。 さきわうの幸に、 マガモの真、 ちとせあめの千と書く。 あたらしい先生だな。 なんという名だ」 八歳と聞いている。 年からしても小柄だが、 中身もお子様らしい。「真鴨に千歳飴ですか。 …… 何故に鴨 …………。 私は 真咲と申します。 真っ盛りの真に、 咲き誇るの咲と書きます」 しまった。 説明しながら これでは完全に名前負けじゃないかと思った。 今の姿は 地味な不細工眼鏡なのだ。 もっと控え...
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馬十の辻に風が吹く 第一章―4
宮中に入って 三日が過ぎた。 雑事を済ませ、 いよいよ教育係としての役目に就く。 勉強の時間は 皇女と二人きりだ。「先のお役目の方は、 大怪我をなさって退かれたとか、 なにやら 大変なことが起こったようでございますね。 皇女様がご無事で なによりでした」 さりげなく話を切り出した。「ええ、 本当に怖かったのよ。 お庭に花がたくさん咲いたので見に行ったら、 突然大きな犬に襲われたのです。 先生は 私をかば...
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こんなに寒いのに
こんなに寒いのに、まだミニバラが咲き続けています。 蕾もあります。 うちのベランダは、季節がヘン。...
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注釈――馬十の辻
仙台市にある 芭蕉の辻に由来するエピソードを借りた、 と 次回作のご案内 で書きました。 望みの褒美を取らせる と言われた芭蕉は、 要所にある辻を所望した と伝えられています。「その辻にあって、 子々孫々まで 伊達家の為に情報を集め、役に立ちましょう」 そう言ったらしいです。 カッコイイな、 と思いました。 そこで、 設定を借りました。 場所の条件を変えたので、 少し脚色を加えました。...
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馬十の辻に風が吹く 第一章-3
蛍原帝を援けた勇者は、 実は八人居た。 天山の乱の後、 七人は 重臣として朝廷で高い地位を与えられたが、 八人目の男、 馬十は固辞した。 彼が得意としたのは、 情報を集めたり 裏の工作をしたりという、 言わば 陰働(かげばたら)き。 表立ってしまえば 役に立たない。 蛍原帝は代わりに、 望みのものがあれば 何でも与えると約束した。 馬十が所望したのは、 交通の要所であり、 都にも程近い『辻』であった。 その場...
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馬十の辻に風が吹く 第一章―2
あの少年は 手当てを受けて、 無事に命を永らえた、 と後日、 兄の太久郎から聞いた。 通りかかった一行は、 熱密国から来た使者だったとか。 あの事件以来、 他の呪はともかく、 癒しの呪だけは 自信を持って唱えられるようになったのだ。 あれからまもなく、 太久郎は 旅に出たきりまだ帰ってこない。 随分たくましくなっていることだろう。 物思いにふけっていたせいか、 気がつくと 飛丸が並びかけて、すぐ隣を走って...
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こっそり ひとりごと
都知事選に 細川さんが出馬を表明したらしいですね。 心配です。 都民ではない私には、 あまり関係がないことのはずなんですけどね。 おかしなことになりそうで、心配です。 エネルギー問題は 大事ですが、 東京都だけで 決める問題ではないんじゃないでしょうか。 都政は どうするんでしょう。 おりしも、 オリンピックの準備が始まります。 芸術家肌らしい細川さん。 都の財政が 破たんしないかも、 心配です。 熊本...
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馬十の辻に風が吹く 第一章-1
真咲は いつものように朝の鍛錬を終えて、 帰途に着いた。 後ろから飛丸(とびまる)が必死に付いてくるのを 目の端にとらえて、 がんばっているな とほくそえむ。 飛丸は 十一歳の腕白盛りで、 まだまだ頼りないが、 近頃 少しはやる気を見せるようになった。 真咲も十六歳になり、 教えられるばかりだった立場から、 若い子を指導することを命じられるようになった。 そういえば、 四年前に騒動があったのはこの近くだっ...
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マルペケ問答 お父さんたちのゲーム
「あけまして おめでとうございます」 マル子は 元気にあいさつした。「だいぶ過ぎてるけどね。 手土産は?」 ペケ子は、 ボサボサ頭を掻きながら、 手を出した。 その手に みかんがいくつか載せられた。「なあんだ。 正月の残り物か」「いいえ、 もらいものです。 ペケ子さんは、 お正月は何処かに行ったんですか」「何処にも」「なんとなく、 そんな気がしてました。 寝正月ですね」 マル子は、 ひとつうなずいて、 さらり...
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馬十の辻に風が吹く 序章-3
真神門一族の秘密の一つは、 いくつかの呪を操ることにある。 朝の鍛錬も その為のものだ。 口先だけで呪を唱(とな)えようとしても 効果は薄い。 心身ともに鍛(きた)える修行が必要だった。 真咲も けが)や病気を治す 癒(いや)しの呪を知っていた。 練習中で まだ自信はないが、 何もしないよりはましだろう。 目をこらして 動くものを探す。 分からない。 こうしている間にも 手遅れになるかという焦りが、 かえって感...
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馬十の辻に風が吹く 目次
<馬十に辻に風が吹く> 馬十の辻に風が吹く時、真神門の一族が動く。 体術と呪術を駆使し、都を影で守る一族の娘 真咲の初仕事。 仕事とお洒落を 両立できると思ったのにーっ! なんでこうなるの。 【登場人物】 序章 【1】【2】【3】 第一章 【1】【2】【3】【注釈】【4】【5】【6】【7】【8】 第二章 【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】 第三章 ...
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馬十の辻に風が吹く 序章-2
太久郎の足が ふいに止まった。 おかしい。 どうやら しばらく立ち止まっていた馬車が、 脇道にそれてゆく。 道幅も狭く、 藪(やぶ)が邪魔になって 馬車では不便な道だろうに。 と、 突然気配が乱れた。 屋敷を目指していた太久郎は、 進む方向を変えた。 真咲がとまどったのは 一瞬だった。 何が起こったのか分からないままに、 すかさず後を追う。 異変に気づいた者は 他に無かったろう。 手際の良い仕事だったようだ...
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明日は七草
明日は 七草ですね。 早いです。 あべかわ餅をまだ食べていないのに。 七草なずな 唐土の鳥が 日本の国に 渡らぬさきに すっととんとんとん すっととんとん こう歌いながら、 包丁で まな板を叩くように 刻みます。 歌詞やメロディーは、 地方によって ちょっと違ったりしているかもう。 どういう意味なんでしょうね。 もしかして、 渡り鳥が 中国からウィルスを運んで来る前に、 免疫力を高めておこう…… だっ...
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馬十の辻に風が吹く 序章-1
真央土(まおと)国 のほぼ中央にある都、 蛍原京(ほとはらきょう)から 南に走る街道がある。 少し進めば、 東西を結ぶ古来からの大きな街道と交差する。 その辻は いつの頃からか 馬十(ばじゅう)の辻と呼ばれていた。 都と各地方を行き来する人と物のほとんどが、 その辻を通ることになる。 馬十の辻を含む ささやかな一帯を領地とする一族があった。 真神門(まかみかど)一族である。 辻の名前の由来と、 真神門一族につい...
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次回作のご案内
題名は 「馬十の辻に風が吹く」 です。 午年を意識したわけではありません。 たまたまです。本当です。 「ばじゅうのつじ」と読んでください。 仙台には「芭蕉の辻」というところがあります。 郷土史研究家 田村 昭氏の著作「芭蕉の辻」(たぶん)で、 辻の名前の由来を知りました。 芭蕉とは人名です。 俳人の松尾芭蕉とは別人です。 松尾芭蕉よりも前の時代の人です。 戦国時代に、こっそりと活躍したであろう人...
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新年
あけまして おめでとうございます 起きて、何気なくテレビをつけたら、 Eテレで お能の「高砂」をやっていました。 途中でしたが、お屠蘇を舐めながら観ました。 昨晩「生さだ」を見ながら、ぬかりなく屠蘇散を仕込んでおいたのでした。 「高砂」は、爺さんと婆さんが出てくる地味~な演目かと思っていたら、 意外に華やかでめでたい感じがしました。 お雑煮もやっつけました。 年末の某テレビ番組のアンケートで、...