2013年10月のエントリー一覧
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薬種狩り 十四の2
宴会は 派手に盛り上がった。 すっかり救世主に祭り上げられた米斗亥は、 生まれて初めて口にする海産物に魅せられ、 隠忍の里とは風味の異なった酒に酔いしれた。 とげとげしさは影をひそめ、 どんどん救世主らしい鷹揚な態度になってゆく。 今にも「よきにはからえ」とか言っちゃいそうだ。「大丈夫そうだな」 様子を見ていた玲が言った。 喧嘩っ早い男と知っていながら、 米斗亥を呼びに行かせたのは玲だ。 もめごとが...
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薬種狩り 十四の1
名人芸というには大きすぎる出口をこしらえて、 悲願の隧道は 貫通した。 米斗亥の自信は いささかも揺るがず、 常軌を逸した村人の 歓喜の声に包まれた。 そして、 性懲りもなく 開通記念の宴へとなだれ込んでいった。 今回の主役は、 米斗亥である。 前回を上回るドンチャン騒ぎを後に、 衣都は 村長宅を抜け出た。 今夜は 一滴の酒も 一口の魚も口にしていない。 裂け目に架かる橋の手前まで来て、 ためらった。 橋...
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薬種狩り 十三の7
玲を探す必要が無く、 穂田里が迷子になるのを気にしなければ、 一度通った土地である。 塩の洞窟まで一日もあれば着いた。 四日後の夕暮れ時には、 米斗亥を連れて さかな村に戻ってきた。 二人が無理やり架けた一本橋は 撤去されている。 村の入り口にある橋の所で、 衣都は 迷子鈴を鳴らした。 しばらく待っていると、 大勢の見物人を引き連れて、 玲が 急ぐ風でもなく出てきた。「思いっきり吹っ飛ばして良いんだら」...
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薬種狩り 十三の6
村長は青くなった。 海太郎は いったい何をした。 心臓が痛い。「衣都、 米斗亥を呼んで来てくれ。 自慢の発明を 心ゆくまで使わせてやると言えば、 喜んで来る」 村長の気持ちなどそっちのけにして、 玲は意外な事を言いだした。「分かった」 と、 衣都。「なるほど、 そういうことか。 じゃあひとっ走り行ってくるわ」 穂田里も頷いた。「頼む」「おい、 頼むって、 玲は行かないのか。 足がまだ痛むのか」「否、 完治し...
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薔薇の挿し木について
挿し木してから1年半で、こんなに大きくなってくれました。Limeさん、土に挿せば良いというもんではないです。薔薇は、比較的挿し木で根付きやすいとはいえ、多少のコツはあります。詳しい専門家の方はたくさんいらっしゃるでしょうが、私なりの方法を書いてみます。まずは、大切にされて活きの良いものを選びましょう。売れ残りのバーゲン品は、成功しにくいです。切り口がそのままよりは、斜めに切った方がいいです。さらに、皮...
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デジカメを買いました。んで、テストです
デジカメを買いました。初体験です。まだ、勝手が分かりません。とりあえず使ってみねば、ということで。テストです。右往左往しているというのに、天気は雨。暗いです。しゃっきりした写真になりません。もっと光を!!!左の画像は、心配そうに コッソリと陰からのぞく えのころ君です。とりあえず、何が何でもテストです。右の画像は、切り花で買った薔薇を、挿し木にして育てた薔薇です。なぜか、こんな風に、枝が垂れてしま...
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薬種狩り 十三の5
多くの村人が はしゃぎすぎて疲れ、 あるいは 二日酔いでつぶれ、 もしくは その両方により 日常の活動に支障をきたしても、 朝は来た。 昼を過ぎてから やっと動きを取り戻し始めた頃、 村長も 重い腰を上げて 勅使様たちの前に まかり出た。 三人とも 普通に元気そうだったが、 前日よりさらに膨れ上がった穂田里の青あざを見て、 改めて恐縮することしきりだった。「海太郎の奴めが とんでもない事をやらかしまして、 ...
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薬種狩り 十三の4
と、 その時、 良く通る声が その空気を切り裂いて響いた。「者ども控えーっ。 この勅書が目に入らぬか。 我らは 恐れ多くも 帝の勅命を賜《たまわ《った勅使であるぞ。 頭が高―い」 柿の木を背に、 玲が 高々と勅書をかかげていた。 ははーっ。 村人は 一人残らず土下座して、 地面に這《は《いつくばった。 今回は効果絶大である。「数々の失礼の段、 お許しを。 ただいま 村長を呼びにやらせますゆえ、 しばしお許...
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薬種狩り 十三の3
二人は 村の奥へと進み、 海太郎の家を探し始めた。 村の海側には 風除けの為か 屏風のように松が並んでいるが、 それぞれの家も 木々で囲まれていたり、 石垣塀が積んであったりしていて、 見通しは良くない。「玲―、 何処に居る。 顔を見せろーっ」 木が倒れた地響きと、 穂田里の怒鳴り声に驚いて、 あちらこちらの家から、 何事かと村人たちが出てきた。 驚いて、 棒や鎌などを手にしている者も見受けられたが、 その...
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薬種狩り 十三の2
幸い、 猪は出なかったが、 一度だけ、 夜更けに 異様な気配を感じた二人が目を覚ますと、 緑色に光る一対の目が 闇の中から じっと見つめていた事があった。 穂田里が殺気を放つや、 一瞬の躊躇《ちゅうちょ《の後に 素早く消えたが、 身を翻した一瞬、 かすかな月明かりを受けて、 灰色の体毛が銀色に輝いたように見えた。「今のは狼か」 すっかり気配が無くなるのを待って、 穂田里が呟いた。「……のようなもの」 あい...
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薬種狩り 十三の1
細紐の橋を 走るように渡っていった天狗の姿は、 対岸に着くとすぐに 見えなくなった。 小さすぎるせいなのか、 動きが素早いからなのかは、 見送った二人には判断できない。 二人きりになったのを意識してしまった穂田里の様子が、 ぎこちなくなった。「衣都さん。 ご趣味は? ……とか聞いている場合ではないけど、 何を言って良いのやら…… あー、 あー 本日は晴天なり…… でもないな。 うおっほん」 咳払いでごまかし...
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ちっこいウインドウに邪魔された
一昨日のことです。 記事を書いて、 更新しようと「記事を保存する」をクリック。 すると、 ちっこいウインドウが出現しました。 うちは、 FC2ブログです。 記事は 保存されていません という注意書きの下に、 二つの選択肢が。 * 次のページに移動する * このページにとどまる 正確ではないかもしれませんが、 そんな文言でした。 いやいや、 保存されてないなら、 勝手に移動しようとするんじゃない。 だいた...
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薬種狩り 十二の3
海太郎の母は、 朝晩の飯時に 鍋の蓋を叩いて知らせる。 狭い家だから そんな事をしなくても 十分声だけで聞こえるのだが、 癖になっているのだろう。「鈴の音が聞こえなかったか」「あれは 鍋の蓋だ」「鈴の音が混じって聞こえた」「じゃあ 鈴虫だろ」 そんな会話を毎度続けている。「僕の仲間は まだ見つからないのか」 と問えば、 適当に はぐらかされているうちに、 足は普通に歩けるまでになった。 根が丈夫なのだろう...
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薬種狩り 十二の2
ひたすら穴を掘り続ける主人公に感情移入しているうちに、 どうやら 風呂が沸いたようだ。 海太郎が来た。「足が不自由だろう。 俺が一緒に入って洗ってやる」「余計なお世話だ。 一人で入る」「遠慮は無用だ。 俺が 隅から隅まで…… ハックション、 ハックション ……あれ、 おかしいな。 風邪をひいたかな」「くしゃみが二つ…… 天狗が居るのか?」 独り言に近い呟きを漏らした玲に、 海太郎は鼻を鳴らした。「どこの迷信だ。...
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薬種狩り 十二の1
大男の梅太郎が家に入ると、 奥には 足首に布をぐるぐる巻きにした玲が ぐったりと横になっていた。 傍には 粗末な紙をとじた冊子が三冊 転がっている。 玲は 額に手を当て、 苦しそうに小さく呻いた。「具合が悪いのか」 心配そうな梅太郎の問いかけに、 玲は体を起こし、 しかめっ面で答えた。「当然だ。 いったい何だ、 これは。 読むと頭痛がする。 もっと面白い書物を持ってきてくれたまえ。 それから、 そろそろ湿...
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薬種狩り 十一の6
「あ、い、い、う、え…… じゃなかった。 衣都……さん。 あのう、 そのう、 ぞんざいに扱ってすまなかった。 逞しいし、 頼りになるし、 てっきり男の子だとばかり思っていたんだ。 だって、 普通女の子は、 もっと出っ張っていたり 引っこんでいたりするもんだろ。 うわああ、 やっ、 すまん。 これからは心を入れ替えて 真人間に…… じゃなくて、 大切に扱うから、 許してくれ」 祖母と母以外は 男ばかりの一家。 出入りす...
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今日は東京オリンピックの日です
きょうは 体育の日。 元々は、 1964年のオリンピック開会式の日10月10日を記念した祝日だった。 そこで、 思い出したことを、 例によって、 とりとめもなく書いてみる。 Numberというスポーツ総合雑誌があった。 今もあるかどうかは知らない。 競馬の特集を見つけたのをきっかけに 知ったのだが、 マイナーなスポーツを特集することがあって、 面白かった。 だけど、 だんだん プロ野球や サッカーを扱う号が増えて、...
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神の数式 だってさ
ここのところ 何回か、 不思議な現象に出会った話を書いてみましたが、 私には 霊感なんてものは無いと思ってます。 霊視も出来ないし、 オーラも見えないし、 幽霊さんにお会いしたことも 無いわけで。 でも、 人生には 不思議なことも たま~に起こる。 琥珀(エレクトロン)の魔法から 電気が発見されたように、 いつの日か、 これらの不思議が解明されて、 世界の秘密に一歩近づけたら面白いのに、 と思うだけである...
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薬種狩り 十一の5
「あいつは オニの一族を手なずけたそうじゃないか」「少し違う気がする。 確かに 一族最強と ほとんど五分に渡り合ったが、 手なずけたというなら、 このいっちゃんの方だな」 後ろに居た衣都に ちらりと目をやる。 はじめは怖がっていた 柚希里と摩周に懐かれ、 佑流の教導魂に火をつけ、 最後まで 敵愾心《てきがいしん《を燃やしていた 米斗亥に 「また来るよろし」と 言わせたのは衣都だ。 大男は 信じられないことを...
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薬種狩り 十一の4
焦った穂田里が 度々迷子になったりして、 玲を見失ってから、 すでに 二日が過ぎていた。 だいぶ手間がかかったが、 でこぼこの地形を抜けると、 いきなり目の前が開け、 集落を見つけた。 なだらかに開けた土地に、 田畑に囲まれて 頑丈そうな建物が点在している。 一番手前に見える家をめがけて 走りだそうとした穂田里に、 衣都が 飛びついて止めた。「止まれ!」 不意を突かれた穂田里は、 衣都と一緒に その場に倒...
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薬種狩り 十一の3
「あれっ、 今、 迷子鈴の音がしなかったか」 玲の声は聞き逃しても、 迷子鈴の音は 二人の耳に届いた。「した」「玲が居ないぞ。 俺に偉そうなことを言ったくせに、 自分が迷子になったらしい。 見つけたら 笑ってやろうっと」 口では 憎たらしいことを言いながらも、 穂田里は さっさと来た道を引き返す。 かなり戻ってみたが、 玲は見つからなかった。 穂田里の血相が変わってゆく。 衣都がはぐれたからといって 心配は...
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薬種狩り 十一の2
見回せば、 見上げるばかりに はるかに切り立った大規模な崖と、 行き先の見通しを塞ぐように、 こんもりとした山というには小さすぎる土の塊が、 累々と続く光景しか目に入らない。《見える所には 無いのう》「見えない所は 分からないのか」《よほど特徴のある霊気ならともかく、 見えた方が はっきりするな》「では、 見晴らしの良い場所に行こう」 進もうとした穂田里の袖を はっしと玲がつかんだ。「見晴らしの良い場所...
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薬種狩り 十一の1
「おい、 本当に大丈夫なのか」「ど素人は黙っているだら。 邪魔だ」 何かと穂田里に咬みつく若い男の名を 米斗亥《まいとがい《という。 本人曰く、 火薬作りの名人なのだとか。 威力の大きい新型火薬を発明したと自慢する。 東に行けないと困っていた三人を 冷ややかに眺めながら、 心に迷いがあったのを 村長に見破られ、 白状させられた。 東山の裾に、 塩の洞窟と呼ばれている洞窟があった。 奥に進めば 岩塩の層に行...
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訂正のお知らせ
「薬種狩り」の【一】 を訂正しました。 実は、 だいぶ前に訂正したのですが、 お知らせが遅くなってしまいました。 穂田里が、 男か女か はっきり書いてないので、 しばらくの間、 女だと思って読んでいた。 そういうご指摘をいただきました。 先輩、 ありがとうございます。 太郎とかいう名前なら、 間違えないのでしょうが、 穂田里という名前も 微妙ですものね。 なので、 はっきり男と分かるように 訂正を入れまし...
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競馬場は不思議スポットなの?
一時期、 暇さえあれば 競馬場に出かけていた時期があった。 府中、 中山、 大井、 川崎、 船橋、 浦和、 札幌 の競馬場に行ったことがある。 馬が全速力で走る姿は 迫力である。 興奮する。 レース前のパドックでは、 すぐ近くで馬を見ることができる。 でかい、 力強い、 たくましい。 馬に乗った事があるのは 二回半しかないが、 馬の背中はけっこう高い。 「半」というのは、 本物の馬ではなく、 仮装行列用のハリ...
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薬種狩り 十の4
「ふぉっふぉっふぉっ。 でかした。 なるほど、 そういうことだら」 村長の顔が 複雑に波打った。 おおいに笑ったらしい。「そっちの色白の坊も 読んだんだったら気が付いただら。 『教えの書』は ヘンな本だら。 確かにもっともらしいことが書いてあるけんど、 それよりも 暮らしの細々とした事が 数多く書いてあるのだら。 生ゴミの処分方法まであって、 いったい琵琶妥流は何を考えておったやら と不思議だっただら」 ...
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薬種狩り 十の3
『我らは迫害から逃げた。 迫害を受けた者は 時に心を壊し、 しばしば 判断力を失う。 故に 逃亡は決して間違いではなかったと思う。 しかし、 それが 全ての解決とも思っていない。 人間には 無くしてはならないものがある。 我らは心を癒し、 失ったものをこの手に取り戻す。 その為に逃亡したのだという事を 忘れてはならない。 何時の日か、 一族の誇りと勇気を以って 再び広い世界に向かい、 心を開け。 その時が来る...
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薬種狩り 十の2
いつもの大声に、 村人の半数以上が その場でひっくり返った。 導師の大声は続く。「わいも数えた。 その日、 すべてを投げ打って 数えただら!」 あまりの真剣さに、 村人たちは声を飲み込んだが、 (えっ? 数えたのか) と思った。 絶対に思った。「『遠ざけよ』は 確かに百八だった。 しかーし、 『心を開け』は 百十あったのだら。 奴は見落としたのだら」 建物までもがビリビリと震えそうな大声にも負けず、 玲...
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薬種狩り 十の1
小さな摩周は 危機から脱した。 あとは 養生して体力の回復を待つばかりだ。「息子の命を助けてくれて、 ありがとうなのだ」「別に礼の必要は無い」 玲があっさりと返答した。 天狗苺のせいで起こった事だ。 が、 明日妥流はこだわった。「村長が直接礼を言いたいから、 立ち寄って欲しいと言っているだら。 それから、 この先も旅を続けるなら これを持っていくよろし。 迷子鈴だら。 獣除けや 蛇除けにもなるだが、 仲...