2013年05月のエントリー一覧
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天州晴神霊記 第七章 二五ノ目辻――1
斎布と雅彦も召集され、 輪と志信に同行して 一条路門に向かって歩いていた。 夕暮れ時である。 すでに 薄暗くなってきていた。 後ろから 好奇心に駆られたあずきが、 エダマメを肩に乗せて こっそりとついて行くが、 小さ過ぎて 四人は気付いていない。 一応見つからないようにしていたが、 あずきは 心配なんかしていなかった。 見つかっても 一人で帰れとは言わないはずだ。 言われたら、 怖いから一人では帰れない ...
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天州晴神霊記 第六章――9
そんなある日、 暇そうな家人にねだって、 大神殿を見物に出かけたあずきが 日暮れに帰ると、 すぐに 斎布の部屋にやって来た。「姫様、 ただいま。 都って 変わったものばかりあって 面白いですね」「何を見つけたのかしら」 あずきは早速、 懐から 書付のようなものを取り出して見せた。 斎布が受け取って 開いてみれば、 『日暮れに、 ここで待つ 四郎五郎』 と豪快な字で書いてあるのみ。「なあにこれ」 斎布は 眉...
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外国語 あるいは翻訳文が日本語に与えた影響について
「scribo ergo sum」 の八少女さんとこの小説に、 『Bloody Mary』というカクテルが出てきました。 大勢のプロテスタントを 次々と処刑した 16世紀のイングランド女王 メアリー一世にちなんで名づけられた といわれるカクテルです。 通常は、 『血まみれマリー』 もしくは『血まみれメアリー』 と翻訳されます。 八少女さんの小説では、 主人公が、 それを もう一人の登場人物を思い出しながら、 「忌々しい摩利子」と変...
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天州晴神霊記 第六章――8
二人が話している間にも、 怪しい蝶は次から次へと数が増えて 珠由良殿に押し寄せて行く。 はじめに現れた一匹が、 珠由良殿にいよいよ迫ったが、 手前で進めなくなったのか 後退る。 他も後を追うが、 やはり取り囲むばかりで それ以上は近づこうとしない。「おい、 放っておいて大丈夫なのか」「う~ん、 誰が操っているのか調べるには どうすればいいのかしら。 けっこう難問ねえ」 怪しい蝶は 途切れることなく湧き出...
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天州晴神霊記 第六章――7
「ええーっ、 さっきの人が 雅彦名人なんですか。 本物を見ちゃった。 感激! 輪様の助手をしているなんて、 さすがです」 あずきは廊下を振り返ったが、 姿はもう見えない。「あら、 名人だったの。 知らなかったわ」「水鏡の術では水輪繋、 いえ天州晴一の名人ですって。 高画質の鮮明な映像と、 高音から重低音まで幅の広い豊かな音声を駆使した 超高性能の術だって、 母ちゃんが言ってました」 それはすごい と目を丸...
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天州晴神霊記 第六章――6
斎布に挨拶に出たあずきは、 直接聞くことにした。 しかし、 返って来た答えは 今一つ要領を得ない。「あずきちゃんになら 相談してみたいのは山々なのだけど、 国家的な極秘事項にかかわってくるのよねえ。 私の目論見は、 今のところさっぱりだし、 これからが正念場なのだけれど、 言えないわ」「おお! 国家的大秘密事項! 怪しい目論見! 天州晴征服も最後の詰めなのだな」 志信が気勢を上げる。「そこまで言っ...
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天州晴神霊記 第六章――5
「あずき。 おまえ一人か。 他のみんなは?」「エダマメが一緒だよ。 あとのみんなは 出てこようとした時に 親たちに見つかって、 連れ戻された」 ミミズクのエダマメは、 きょろきょろとあたりを見回している。 とまり心地のよさそうな庭木を物色していたのかもしれないが、 そのまま あずきの肩を動こうとはしなかった。「シロもか」「蘇平(そへい)と一緒に連れ戻された。 蘇平が命令すれば、 シロだけでも来れたはずなんだ...
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天州晴神霊記 第六章――4
「捕まえようとすると消えたとか。 虫ではありません。 それが 夜毎に数を増して、 近頃は 珠由良殿を取り巻くほどに びっしりと現れるそうで、 幸い、 珠由良の前は気づいておられないのか、 何もおっしゃらないようですが、 女官たちが気味悪がっているので 調べてほしいとのご依頼です」「斎土府の神官さんは どうしちゃったのかしら。 調べてくれないの?」「それが…… 現れるのは真夜中過ぎ。 神官殿は お歳がお歳ですか...
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天州晴神霊記 第六章――3
輪のところに 宗靭が押し掛けた。「洛中では 妖魔や邪気が激減したというのは 本当でございますか」 宗靭が渋面で問いかければ、 のんきに日向ぼっこを楽しんでいた輪が 即座に応じた。「本当だってば。 私がズルをして怠けてるとか思っているわけ? 大神殿が派手なことしてから、 どんどん邪気が減ったわよ。 ああいう風に目立つやり方が使えると 楽よね。 勝手に邪気が減るもの。 うちもやろうかしら」「やめてください...
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天州晴神霊記 第六章――2
「お嬢ちゃん、 一人かい」 近くに人がいない時を見計らって 声をかけた。 女の子は 辺りを見回していた視線を止めて、 ゆっくりと斑を見上げ、 うん と素直に頷いた。「行くところはあるのか」 せいぜい優しいお兄さんを取り繕って 続ければ、 これにも素直に頷く。「迷ったのなら 送ってやろうか」 女の子は、 円らな目をゆっくり一つ瞬きすると、 可愛らしい声で答えた。「…… だいじょうぶ …… あのね、 北は どっちかな...
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天州晴神霊記 第六章 珠由良殿――1
都には 人も物も天州晴中から 次々とやってくる。 いちいち大げさに驚かないのが 粋な都人というものだ。 しかし、 その子は 確かに都人の目を引いた。 着ている物は古くはないが、 明らかに粗末で あか抜けない代物だった。 一目で 田舎から出てきたばかりと知れる。 まだ母親の膝が恋しい年ごろにしか見えない。 日が傾きかけた都大路にぽつんと立って、 物珍しげに 辺りを見回している。 何処を歩いてきたものか、 埃...
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人類は どこまで増える気なのか
昨夜遅くに、たまたまEテレをみたら、 外国の有名な先生らしき人が、 講義をしていた。 宗教と人口増加の関連性について(間違ってたらごめん) みたいな内容だったと思う。 何しろ、 最後の部分を ちらりと見ただけなので、 よく分かっていない。 その先生の想定としては、 人類は 100億人で、 増加がストップする。 ということらしい。 人類の未来は、 MAX100億人で考えておけば 良いんだそうだ。 現在の世...
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天州晴神霊記 第五章――13
「あわわわわ、 不穏な世情をひっくり返して、 天州晴に 大平穏を取り戻す大作戦よ」 斎布は焦った。 とりあえず、 嘘ではない。 もしかして 志信は、 斎布が 朝廷をひっくり返す謀反を企てていると 本気で思っているのだろうか。 危ないったらありゃしない。「その大作戦には賛成だ。 一緒にやろう。 うん、 気が合うな」 四郎五郎は 嬉しそうに笑った。「同じ目的を持つ同志だ。 連絡を取り合おうではないか。 何処に行...
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天州晴神霊記 第五章――12
「いつまでそうしてるんだ。 いいかげんに 霧呼様を下ろせ」 志信に注意され、 四郎五郎は 残念そうに斎布を下ろした。 斎布は歩き出そうとしたのだが、 どうも調子がおかしい。 心臓は 勝手にドキドキするし、 体が自分のものではないみたいに ぎくしゃくする。「霧呼様、 右手と右足が一緒に動いているぞ。 足がもつれているんじゃないか。 …… あっ、 転んだ……」「だ、 だ、 だ、 大丈夫だから」 ちっとも大丈夫そうには...
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天州晴神霊記 第五章――11
「なるほど、 あれは破魔矢ですな」 閼伽丸が 息を飲んだ。 破魔矢が妖魔を突き抜けて、 夜空の中天に消えた。 突き抜けた所から形が崩れだし、 闇となって 流れ出す。 やがて、 鏃(やじり)を下にして 再び姿を現した破魔矢は、 広場中央の丸太に突き刺さって 止まった。 すると 流れ出しうねり悶えていた闇が、 渦を巻いて引き寄せられ、 依代(よりしろ)となった丸太に吸い込まれていった。 そこかしこに散らばっていた半...
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橋下発言騒動のやりとりは、なんだか嘘くせ~
国会中継を見ていたら、 橋下発言について、 阿部総理に文句を言っている人が居た。 橋下氏は、 いつの間にか 阿部内閣に入閣したのか? もしかして、 自民党に入ったのか? わけの分からん問答をしていた。 人間は 動物である。 人間には 性欲というものがある。 親鸞聖人でさえ、 苦しんだ。 観音様にお願いしたらしい。 特に、 生命の危機に臨んだ時、 オスは、 DNAを残そうとして 発情するという説を聞いた。 ...
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天州晴神霊記 第五章――10
「霧呼様、 霧は?」「無理!」 その間にも すっかり形を取り戻し、 二匹に増えた妖魔が 牙をむいて それぞれに襲いかかった。 突然 どこからともなく、 二つの影が躍り出た。 長身で しなやかな影は、 左腕一本で斎布を引っさらい、 右手の剣で 妖魔を斬ってすてた。 一匹は消えた。 志信に襲いかかった妖魔には 大きな影が剣を繰り出したが、 動きを一瞬止めただけに終わる。 だが、 その一瞬で十分だった。 志信は 腰...
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天州晴神霊記 第五章――9
神官たちの何人かが、 堪らず 二条大路から続く炎の道を消しに 走った。 が、 なかなか消えず、 邪気は容赦なく 勢いを増してなだれ込んでくる。 大神殿にとっても 予想以上のことが起こっていると分かる。 闇の塊が身悶えるように揺れ、 暗さを増しながら形を成した。「で、 でかい」 身の丈は ゆうに人間の三倍以上、 民家なら 二階家の軒先に届きそうなほどに立ち上がった。 荒唐無稽な絵草紙に描かれた魔物の絵に なぜ...
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天州晴神霊記 第五章――8
やがて、 あたりは どっぷりと闇に包まれ、 都が寝静まった頃になって やっと新たな動きが起こった。 拝殿の中には わずかな明かりがあるものの、 拝殿前の灯篭が消され、 張り詰めたような闇と静寂の中、 本殿の扉が開く。 松明を掲げた一団が現れた。 前後を松明に守られるように、 三宝を持った神官と 正装で固めた白髪の大神官が ゆうるりと進み始め、 二条大路に向った。 彼らの姿が遠ざかると、 篝火に火が放たれ...
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天州晴神霊記 第五章――7
「ずいぶんと大がかりなんだな」 志信が目を丸くした。 夕暮が迫る頃、 大神殿前の広場では 大勢の神官たちが立ち働いていた。 写緑を引っぱりまわした翌日のことである。 大神殿が 魔除けのお祓いをすると聞いて、 斎布は興味を覚えた。 急いで確かめてみれば、 本当だという。 しかも、 大神殿が大がかりな魔除け祓いをするのは 初めてらしい。 星都自体が 魔除け装置になっているのだ。 鬼道門家も見張っている。 こ...
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新聞記者は 人の話を聞かないからなあ
おい、 たまには爺の話を聞いておけ。 もうずいぶん昔のことになったが、 俺が バリバリやっていた頃の話さ。 丸の内ビル連続爆破事件 てえのがあってさ。 三菱重工ビルが最初だったかなあ。 建設業界の社員教育に使う 教科書のようなものがあるんだが、 俺は 「爆発物取り扱い」についての部分を書いていた。 じっさい、 高速道路を作ったり、 トンネルを掘ったりで、 ハッパは得意だった。 トンネルを掘るには、 両端か...
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天州晴神霊記 第五章――6
「あっ、 待ちなさい」 追いかけようとした若者の腕に、 写緑が ひしとしがみついた。 梃子でも動かないぞ という気迫が見える。「我輩を置いて行かないでくれ。 妖魔に襲われるのは こりごりだ。 我輩を家まで送り届けてくれ。 頼む」「こらっ、 放せ!」「ぜえーったいに 断る。 完全室内派の我輩を見捨てるなど、 破魔の剣を持つ者がするべきことではないぞ。 その剣なら 妖魔を斬れるんだろう」「破魔の剣じゃなくて、 ...
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天州晴神霊記 第五章――5
「すなわち、 犯人は 妖魔を恐れていない。 犯人は 魔を祓う手段を持っているのだ」 どうだ と言わんばかりに、 髭に手をやる。「噂を流したのは 誰かしら?」 斎布が ぽつりと疑問を口にした。「斎土府から漏れたのじゃないのか」「違うわ」「ほほう、 それなら犯人だろう。 他に知っているとすれば、 犯人だけだ」「何故、 噂を流したりするの?」「そ、 そこまでは、 まだ……。 手がかりが足りない」「なあんだ。 もう終わり...
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天州晴神霊記 第五章――4
「うなされる人たちがいるからと 邪気祓いを依頼されて、 この近くに来てみたら 邪気が溢れ出ていたの。 で、 調べてみたという訳。 何日か前から うなされていたというから、 しばらく気が付かないでいたみたいね。 あっ、 そうそう。 盗まれたことを しゃべりまくったのは あなた方なの? せっかく 騒ぎを大きくしないうちに片付けようとしてたのに、 噂が飛び交って、 みんな不安になったじゃないの」「いや、 斎土府に...
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天州晴神霊記 第五章――3
「『ようだ』とか 『そうだ』とか、 非論理的だろ。 遠慮しなくて良い」 志信に意地悪をしている意識は無い。 スカスカ頭には、 そういう高度な機能は備わっていない。 単純な親切心で言っているだけに 始末が悪いともいえる。 天州晴の民は、 幼い頃から 『夜の都大路には百鬼が走る』と聞かされて育つ。 人心が安定してさえいれば、 よほど運が悪くない限り めったに妖魔に出会うことも無いが、 好んで夜の大路を歩く者は...
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天州晴神霊記 第五章――2
「こんなところでうだうだ言ってないで、 九―九八七番灯篭に 確かめに行けば良いじゃないか。 簡単だろ」 口止めされたことを覚えていたのかどうかは いまひとつ不明だが、 志信の答えは単純明快だった。 それを聞いた野次馬たちは、 てんでに顔を顰めたり、 嘲笑うかのように顔をゆがめたりして反論する。「簡単じゃないんだよ。 光っていない時の光石は、 そこいらに転がっている石ころと区別なんか出来やしないさ」「じ...
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天州晴神霊記 第五章 探偵登場――1
何事もなく、夜が明け、 斎土府から 光石盗難事件が公表された。〈犯人は 鋭意捜索中である。 四―九八七の灯篭には、 すでに 本物の光石が設置済みなので、 魔封じに支障はない〉 との内容に、 都人が安堵したのは、 しかしほんの一時にすぎなかった。 斎土府は嘘を言っている。 今度は そういう噂がたちまちのうちに立ったのだ。 もはや処置無しである。 斎土府は信用されていない。 〈作戦その三〉をあざ笑うかのように...
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犬派のねこまんま その28 byねこじゃらし
<大きくならないはずのウサギは でかいウサギに育った> ある日のことである。 母と妹が 街に買い物に出かけた。 洋服を買いに行ったはずだが、 何故か、 ちっちゃなウサギ も買ってきた。 片手に乗るほど小さい 茶色の子ウサギである。 よく見ると、 不細工 だった。 しかも、 汚れにしか見えない斑点まである。 お世辞にも可愛いとは言い難い。 しかし、 買ってきた二人は おおいに盛り上がって はしゃいでいた。 買...
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天州晴神霊記 第四章――8
昨夜の今日だ。 まだ 丸一日も経っていない。 都人の噂好きにも困ったものだが、 四―九八七、 よく出来た贋物 等々、 細かいところまで 妙に具体的である。 珠由良の前に関する噂の とんでもない怪しさに比べて、 ほとんど事実なのが かえって不思議だ。 消えていたわけではないから、 通りすがりの人間が偶然見つけたとは考えにくい。 重さを知っている人間も、 そうそう居るはずがない。 斎土府唯一の文官 青梅の態度か...