2013年04月のエントリー一覧
-
天州晴神霊記 第四章――7
「えーと、 次はっと、 午後からは孔雀町に行くわよ」「承知!」 二人は 颯爽と大内裏を後にした。 来て欲しくない時には、 行く先々に現れて邪魔くさいくせに、 いざ探そうとすると 斑は見つからなかった。 どうせ 善良な市民に迷惑行為をしているのだろうと、 それらしい場所を当たってみたり、 地元に詳しそうな人に尋ねたりしてみたが、 いっこうに見つからない。 ごろつき仲間なら知っているだろうかと、 それらしい ...
-
天州晴神霊記 第四章――6
「これから仕事に出かけるのだけれど、 歩きながらでいいかな」 てれてれとした歩き方は 変わらない。「あなたは何者なの。 まだ名前も聞いていなかったわ」 ここは仕方がない。 回りくどい聞き方は苦手だ。 こちらの事を聞かれたら、 適当に誤魔化そう。「名は 山委曲(やまつばら)青梅(おうめ)。 斎土府で唯一の文官だね」「うそーっ。 れっきとした文官が そんな格好でいいの? それに、 あっちこっちふらついているよう...
-
天州晴神霊記 第四章――5
「わかんない」 即答である。 無駄と知りつつ、 つい聞いてしまった自分が 少し情けない。 斎布は、 思わずため息をついた。「わかんないからだろ。 分かってしまえば、 なあんだと思うようなことも、 わかんないと不安になるな」「すごい。 志信ったら 成長いちじるしいわ」 まさか、 まともな答えが返ってくるとは思っていなかった。 つらつらと思い起こせば、 今まで どれほど多くの分からない事を放りっぱなしにしてき...
-
天州晴神霊記 第四章――4
やれやれ と頭を振りながらも 憮然として答えたとき、 見知った人物が目に飛び込んできた。 山の若様だ。 正体不明とか 意味不明が都人の条件ならば、 この人も当てはまる。 世の中を斜めに渡っているような 拗(す)ねた感じは、 大内裏に居ても変わらない。 わざと着崩した姿で てれてれ歩いてきた。「んっ、 また会ったな」「あんた、 何で こんなところに居るんだ?」 気づいて声をかけてきた若様に、 志信が問いただす...
-
天州晴神霊記 第四章――3
内侍が水を持ってきた。「内裏の井戸じゃ。 冷たくて美味いぞ。 これだけ暑いと、 そろそろ 暑気払いをせねばなるまい。 去年の 『熱闘我慢比べ』 は面白かったが、 熱中症で バタバタ倒れる者が続出して、 宮中が機能停止に陥ってのう。 各方面から苦情が殺到した。 今年は 『大内裏一周そうめん流し』 を考えておる。 それなら 涼しそうだと思わんか」「大量の水が必要になりますな。 無理でしょう」 一夜姫の思い付き...
-
天州晴神霊記 第四章――2
大路灯篭の光石が 贋物に替わっていたことを報告する。「四―九八七番灯篭か。 都はずれだの。 贋物を置いてゆくとは、 単なる盗人にしては芸が細かい。 よし、 今日中に 代わりの光石を取り付けよう」「誰の仕業か分からないのに、 今日中にできるんですか」 斎布は 驚いて聞き返した。「予備がいくつかあるのだ。 当たり前だろう。 あっ、 これは内緒だ。 盗人が 安心してどんどん盗んでは敵わぬからな。 それと、 取り戻...
-
天州晴神霊記 第四章 斎土府――1
宗靭に連れられて、 斎布と志信は 眠い目を擦りながら 大内裏の楼門をくぐった。 隙を見て 二人の男を撒いて屋敷に帰る早々、 宗靭の寝込みを襲って 重大報告をすると、 翌朝の同行を求められたのだ。「お二人とも、 もう少し しゃっきりとしてください」 宗靭に活を入れられたが、 どうにも眠い。 斎布は、 退魔の剣を使う男が気になって、 なかなか寝付かれなかったのだ。 華麗な剣捌きで 妖魔を一刀の元に斬り伏せた男。...
-
天州晴神霊記 第三章 かくとだに
大きな争いは、 後の世に禍根を残すものとは聞き及んでおりましたが、 門多義家と喜谷部家の争いは 近隣の土地に迷惑をかけたばかりか、 遠くはなれた都さえも 不安に陥れることになろうとは、 当初は 思いもよらぬことにございました。 しかも、 時が経つにつれ、 収まるばかりか 大きな事件が起こるまでに至りましたのは、 悲恋のうちに 若い命をなくした二人の嘆き故か、 はたまた 愚かな戦いに巻き込まれて 無念の...
-
犬派のねこまんま 27である byねこじゃらし
<山の中には、紫色のトンネルがあったりするのだ> 学生の時、 短い間だったが 学生寮に入っていたことがある。 学舎は うんざりするほどの坂を登った てっぺん近くにあり、 雪が降ったりしようものなら、 スキー板無しでも、 バス通りまで 一直線に滑り降りられそうなほどであった。 逆に、 バスを降りてから、 学舎にたどり着くのが至難の技になる。 ほとんど 罰ゲーム だ。 その坂は 急勾配の上に、 長い。 雪が降ると...
-
天州晴神霊記 第三章――16
「退魔の剣だからな」 若者は 無造作に答えた。「閼伽丸の剣は、 俺の兄が託した『火照(ほでり)の剣(つるぎ)』という。 俺の『白應丸(はくおうまる)』より格上の剣なのだが、 力を出してくれないらしい。 退魔の剣は 使い手を選ぶ」 うなだれる大男に、 ちらりと残念そうな視線を送った。 二人の男は 何者なのだろう。 斎布は ものすごく気になったが、 聞いてしまえば こちらも名乗らなくてはならなくなる。 鬼道門の名を...
-
天州晴神霊記 第三章――15
光の線が、 途切れていた。 ぽっかりと口を開けた闇に向かって 急ぐ。 一つだけ 明かりの見えない灯篭にたどり着いたが、 さすがに暗い。 かろうじて輪郭が分かるだけだ。「志信、 明かり」 志信は 折りたたみ式の下げ行灯を組み立て、 地面に置いて火をつけた。 頼りない光を確認する暇も無く、 志信が斎布をつかんで大きく跳んだ。 勢いで 着地と同時に倒れ込む。 ぞわり。 妖魔の気配だった。 置いてきぼりにされた ...
-
天州晴神霊記 第三章――14
斎布が目を覚ましたのは、 日が傾き始めた頃だった。 寝起きの悪さを根性で補い、 それでも 傍目からはぼうっとしか見えない様子で、 あれやこれやと考えていたところに 志信が来た。 宗靭が一緒だ。「留守居役様が、 昨夜のことを知りたいそうだ」 自分で言っておきながら、 志信は 続けて昨夜の出来事を話し出し、 結局 全部説明した。「……というわけさ」「やはり 邪気でござったか」 宗靭が渋面を作る。 斎布は 文箱か...
-
天州晴神霊記 第三章――13
霧呼紐を少しずつ繰り出しながら、 目いっぱい大きく振れば、 次第に 濃い霧が充満していく。 その間も 邪気は流れ込んで、 ボコボコと妖魔を生み出そうとしていた。 充分に濃い霧が すっぽりと町の一角を覆ったのを見定めて、 志信は 剣を地面に突き立て、 両手で印を結んだ。 と、 危険を察知したのか、 一匹の妖魔が宙に飛び上がり、 空飛ぶツチノコになって 一直線に 志信に襲い掛かった。 志信は無防備だ。 斎布が...
-
天州晴神霊記 第三章――12
「ちょろい」 しかし、 そうはいかなかった。 いったんは浄化されて姿を消すものの、 邪気の流れは 止まることなく溢れ、 飽きもせずに 新たな妖魔を生み出していく。 きりが無かった。「なんじゃ、 こりゃ」「だから、 妖魔でしょ」 始めのうちは、 いい練習になるかも と気楽に霧呼紐をふるっていた斎布だったが、 祓っても祓っても 湧いてくる妖魔に、 だんだん疲れてきた。「こういうの、 嫌いだ」 志信がぼやけば、「...
-
天州晴神霊記 第三章――11
口癖のように言っていた 「つまらん」という声が聞こえない。 きっとつまらなくないのだろうと思うと、 全っ然 面白くなかった。 気に入らない。 いつの間にか、 ものすごい早足になっている。 志信が 慌てて追いかけた。「そんなに急がなくても 大丈夫だぞ。 それにしても、 あの若様たち、 いい感じだったな。 春って感じ? 今は夏だけど」 腹立たしいのは そこだ。 志信の指摘に、 斎布は 〈縁談中止大作戦〉を図る...
-
まる一年経ちました
昨年の4月14日に「物語とか雑文とか」を始めて、 ちょうど一年経ちました。 今日は このブログの誕生日です。 たくさんの方々に訪問して頂き、 読んでいただき、 コメントをいただいて、 ハッピーな一年でした。 ありがとうございます。 大晦日以外は、 毎日更新できました。 この記事は386番目になりますが、 失敗して削除したのが2~3個ありますから、 実際の記事は383~4ということになります。 (数えて...
-
天州晴神霊記 第三章――10
斎布は志信を連れて、 陽のあるうちに屋敷を出た。 目的は都の東、 東雲(しののめ)町。 一度行ったことがあるが、 少々遠い。 たちが悪そうな邪気を見逃した場所だ。 その一帯で、 夜な夜な寝ている人間がうなされ、 叫び声をあげたり 暴れたりすることが頻発している。 医師の見立てでは、 病の判断がつかない。 邪気の仕業かも知れず、 調べて、 出来ることなら対処して欲しい。 文には そう書かれてあったのだが、 邪...
-
天州晴神霊記 第三章――9
「まったく、 三人も后妃がおいでで、 ご立派な皇子様も皇女様もいらっしゃるというのに、 まだお入れになるとは……。 それよりも、 東宮様を何とかなさったほうが良い と皆言っています。 お年頃だというのに、まだお一人もいらっしゃらないのですから」 宗靭が戻ったら報せる と言いおいて、 侍女は下がった。「丁度良うございました。 斎土府(さいどふ)の 斎土(いつきど)様から、 当家にご依頼がございました」 宗靭は、 ...
-
マル子とペケ子のおとぎ話問答 カチカチ山編
「こんにちは。 ペケ子さん、 生きてますか」 マル子が久しぶりに、 ひょっこりと顔を出した。「おっとどっこい、 生きてるよ。 死人の私に用があったなら、 お生憎さまだけどね」 逆襲されて、 マル子はパタパタと手を振った。「ちがいますよ~。 久しぶりの挨拶ですってば」 あわてて 手土産に用意した煎餅を渡すマル子だったが、 ペケ子は いつもよりも不機嫌そうだ。「あらやだ、 そんなにデリケートでし...
-
天州晴神霊記 第三章――8
お腹をすかせて 斎布が目覚めた時には、 陽はすでに高く上っていた。 屋敷に帰り着いて ほっとした途端に、 用意されていた夜食も摂らずに すとんと眠ってしまったのだ。「初のお勤めを果たされたというのに、 気が高ぶった様子も無く 熟睡なさるとは、 さすがに 肝が据わっていらっしゃいますこと」 朝食を下げに来た侍女が言う。 褒めているのか 呆れているのか、 微妙な口調だ。 輪と志信のせいで、 予定に無かったこと...
-
天州晴神霊記 第三章――7
「小さい邪気も でっかい妖魔も、 要領は一緒だ。 やっつけろ」 そんなことを言っても水が無い。 邪気祓いをする時には、 いつも水を用意するのだが、 寝ぼけて 持たずにそのまま出てきてしまった。 追い詰められて後退されば、 垂れた霧呼紐が 地面を擦って手にずしりと重い。 巨大ナメクジが 迫ってくる。 志信が 気合で蜚魔に追いつき、 消滅させるやいなや 身を翻して駆け寄る。 水があれば…………。 ナメクジが 覆いかぶ...
-
天州晴神霊記 第三章――6
「眠らないで下さいね」 そう言われたのに、 二人とも爆睡してしまい、 夜中過ぎに たたき起こされた。「ここから南の方角です。 おそらく、 三五ノ目辻に向かってくるでしょう。 出動してください。 まったく。 寝起きの悪さは 輪様といい勝負ですね。 起きてますかー」「ふぁ~い」 寝ぼけまなこで飛び出し、 人っ子一人いない町を急ぐ。 夜の都大路は、 邪気と妖魔の通り道。 特に 世情が不安定な時期には、 仕方なく横...
-
天州晴神霊記 第三章――5
雅彦君は、 四十に近い おっさんだった。「雅彦君と呼んでください。 慣れていますので、 そのほうが 返事がしやすいです」 きっぱりと言われてしまえば、 素直にうなずく以外、 若い二人に何が出来ただろう。 星都に しょっちゅう妖魔が出るわけではない。 むしろ めったに出ることは無い。 出るのは、 主に世情が不安定になった時だが、 急速に発展する時期にも出ることがある。 つまるところ、 明確には予測することは...
-
天州晴神霊記 第三章――4
「遅―い。 皆 心配いたしましたぞ」 帰るなり、 二人は宗靭に叱られた。 妖魔の件は 報せなくてはならないだろうと、 遅くなった夕飯の後、 輪に逐一報告すれば、 ため息をつかれた。「はーっ、 鬼道門家の姫、 それも霧呼姫ともあろうものが、 妖魔に出会いながら 他人に助けられたってどういうことよ。 立場が逆でしょうに。 本来なら あなたが助けるのが筋ってものでしょ。 ほーんとに使えないわね」「助けてくれと頼ん...
-
天州晴神霊記 第三章――3
子どもほどの大きさで、 形も定まらずに ぐにゅぐにゅと蠢(うごめ)いている。 たいしたものではない。 螻蟻妖(ろうぎよう)の類だろう。 まだ距離がある。 間合いを詰めようと、 志信が一歩踏み出そうとしたとき、 妖魔の後ろに別の影が出現した。 遠目からも背の高い人間のようだ。 するりと剣を抜き放った。「まずい!」 志信が あわて止めようと駆け寄る。 妖魔としては雑魚でも、 普通の人間がかなう相手ではない。 危...
-
天州晴神霊記 第三章――2
驚いた二人が駆けつけると、 灯篭にもたれかかるように立つ 不気味な男がいた。 とっさに志信が、 斎布の背中にしがみつく。 護衛にあるまじき振る舞いだ。「あっ、 あれ、 管虫先生……っていったっけ」 斎布の後ろから、 恐る恐る相手を見定めた志信が、 心底厭そうに呟いた。 悲鳴が止み、 代わりに 抗議の声が上がった。「ま、 またあなたですか。 管虫先生、 突然 変なところから出現するのは止めてください。 驚きます...
-
天州晴神霊記 第三章 光石――1
その日、 斎布は志信をお供に 都の東南、 二条大路と四条大路に挟まれた 東雲(しののめ)町に出向いた。 都の中心を起点に、 鬼道門屋敷とは反対に位置する。 東雲町は 職人の町である。 大小の工房や、 問屋もある。 商売人は 噂を気にするが、 物作りの職人は 噂に惑わされることが少ない。 彼らが相手にするのは 物という確かな現実だからだ。 そう言う人間がいたので、 様子を見に来たのだ。 しかし、 期待はどうやら外...
-
私のお気に入り
リンクさせていただいている 「scribo ergo sum」 さんのところの作品 「小説 ロンドン便り」に、 クロテッドクリーム が出てきました。 しばらく買ってなかったので、 思い出したら たまらなくなり、 さっそく 昨日買いに行きました。 運良くゲット! いつもあるとは限らないのですよ。 日本では、 中沢乳業 しか製造販売をしていなかったと思います。 少なくとも 一般庶民が手に入れることができるのは、 それしかない...
-
BLが人気なワケ
女の言葉が、 男の脳味噌に届いていないと感じることがある。 たぶん聞いてはいる。 耳には届いている。 しかし、 脳味噌の中に到達する前に、 どこかに消える。 男が十分に知っていると思い込んでいる事柄について、 女が男の知らない情報などを言っても、 気づかなかったりする。「ふうん」 と口では言っても、 (何バカな事を言ってんだか) と思っていることが、 ありありと分かったりすることもある。 すぐに、 そん...