2012年10月のエントリー一覧
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蜻蛉の願いはキンキラキン 第一章――8
「ドアホ! バカかおまえは! なあにが導きたまえだ!」 桜に張り倒された。「なんだよ、 くそばばあ! 言ったとおりにしただろ」「全然違う。 『他の七つが手に入りますように』 と願ううんだ。 お願いは 具体的に分かりやすく が鉄則だ。 宝珠の在りかに導かれても、 自分で手に入れなくてはならんようじゃ、 手間がかかるだろう。 おまえのことだから、 楽して手に入りますように くらいは言うと思ったのに、 気...
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蜻蛉の願いはキンキラキン 第一章――7
まだ膨れっ面の蜻蛉を、 しばし眺めていた桜は、 そのまま、 雑貨屋だか 小間物屋だか 薬屋だか よくわからない店に連れ込み、 絆創膏(ばんそうこう)を買った。「一番丈夫で、 でかいのをくれ」 それを 蜻蛉の口にバッテンにして貼り、 ようやく息を継いだ。「念のためだ。 命がかかっておるからな」 蜻蛉は 大いに不満だった。 まともな四弦琴が欲しかった。 何が悲しくて こんな変なのを買わなくてはならないのか、 ...
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蜻蛉の願いはキンキラキン 第一章―6
桜は、 いかにも興味がなさそうに、 しかしながら、 しっかり 一つ一つ店内の品物に手を当ててゆく。 ひとしきり店内を回ると、 店主と思われる親父が 声をかけてきた。「お安くしときますよ」「店を閉めるのか」「爺さんが 暇つぶしみたいにやっていたんですが、 先日 くたばってしまいまして、 処分したいんです」 古道具屋の親父は 正直者だった。 桜は、 店内の一番目立つところに飾ってある 四弦琴(よんげんきん)を手...
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蜻蛉の願いはキンキラキン 第一章――5
《閉店大売出し! 店内すべて驚きの安売り価格! もってけ泥棒!》 黒々と書かれた へたくそだが 勢いだけは感じられる文字。 建物自体が傾いて 倒れかけた古道具屋の前で、 二人は固まっていた。 しかし、 桜の感じる波動は、 今や最高の高まりで 打ち震えていた。 ここにあると信じるしか道はない。「蜻蛉、 金は いくら持っている」「聞くだけ野暮、 って言葉を知っているか? 部屋にある 豚さんの貯金箱にあるのが ...
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蜻蛉の願いはキンキラキン 第一章――4
「えっ? 何が? どういうこと?」「なんだ。 何もわかってないのか。 わたしが卵形宝珠に願ったことは何だ?」「えーと、 たいしたことない霊力」「そう、 わたしのたいしたことない霊力は 宝珠の霊力なのだ。 ……って たいしたことなくないわい!」「まあまあ、 それで?」「近くに在るぞ。 昔わたしが持っていた宝珠が。 共鳴しているのだろう。 ビンビン感じるのだ」 桜は、 両手の掌を前にかざして目を瞑り、 何かを...
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蜻蛉の願いはキンキラキンの目次
「蜻蛉の願いはキンキラキン」 世間知らずな田舎娘が、 奇跡を起こす八つの卵形宝珠を探す旅に出た。 目指すは、世界征服! 同行するのは、 油断ならない まじない師の祖母。 ライバルは、世界を救いたい 心やさしき青年とその祖父。 行く先々で巻き起こる 珍事件。 はたして、 こんなおバカ娘に 世界は征服されてしまうのか。 【登場人物紹介...
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雑文・掌編・の目次
記事が増えてきたので、目次を小分けにしました。 [雑文] ねこじゃらし と名乗る偏屈者が、好き勝手にほざく 独り言。行き先不明。 それぞれの記事は独立しています。 お時間の無い方、つまんでみてください。 【1、一応 所信表明】【2、とりあえず ねこじゃらし】【3、犬派なのに いきなり猫】 【4、人間だって 生き物なのだ】【5、貧乏人の海苔】【6、子どもの暮らしは ハードボイル...
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短編の目次
[短編] 「クロウ日記」 いきなりですが、ファンタジーではありません。 とある王国の王子と、陥れられて朝廷を追われた男の話。 ちょっぴりBL風味。短編です。 【一】【二】【三】【四】【五】【六】【七】【八】【九】【十】(完) 「香美位山」 山間の小さな郷の領地に、災厄が降りかかった。 たった一人の姫君、祈姫...
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くれないの影の目次
「くれないの影」 軽業一座に拾われた孤児、鹿の子の物語。 不思議な得意技を持つ軽業娘が、謎多き姫領主の企みに巻き込まれて、右往左往。 閉じ込められた美貌の若君、領主の婚約者、ちょっかいを出す領主の叔母と娘。 さらに、都から流されてきた帝の弟君が登場して、ひっかきまわす。 何とか乗り切って、旅の軽業師に戻るんだ。 【人物紹介】第一章 次嶺経は...
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赤瑪瑙奇譚の目次
「赤瑪瑙奇譚」(あかめのうきたん) と お読みください。 長編ファンタジーです。 マホロバ王国のユキア姫は、「徹底的に目立たないお姫様」を目指して、日々努力を重ねていた。 武術を究めれば 気配さえ消せる、と書物にあるのを知り、こっそりと鍛練に明け暮れる。 ユキアの目撃情報は 宮中でも書庫のみ、という徹底ぶりで、ひきこもり街道を 驀進していた。 そんなある日、ひょんなことから手...
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蜻蛉の願いはキンキラキン 第一章――3
「最初のお願いが 大事っと、 うん、 うん」「あわてて、 勝手なお願いをしてはいかん。 残り七つの卵形宝珠を 手に入れられますように、 とお願いするのだ」「あったまいい!」「だろ。 そうでもしなけりゃ、 残りは簡単には見つからん。 もっとも、 その願いが必ず叶うとは保障できない。 だから、 全部集められる奴が出てこないのだ。 手近な望みが一つ叶えられるのに、 それを無駄にして試す気にならんのだろう」 人間と...
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蜻蛉の願いはキンキラキン 第一章――2
「知ってるもん。 昔、 見つけたことがある」 いかにも たいしたことがなさそうな言い方だ。 もし、 嘘でからかっているなら、 桜の性格からして、 大げさに言いたてるはずだ。 蜻蛉は、そう判断した。「なにい! 見せろ! 今すぐ見たい」 身を乗り出して叫んだ。 だが、 桜の態度は、 相変わらず素気無い。「だめ」「くそばばあ、 出し惜しみか!」「もう無い。 あれには 消費期限があるのだ。 消えた」「そんな話は聞い...
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蜻蛉の願いはキンキラキン 第一章 黒い霊力――1
生みたての卵を両手で天に奉げ、 睨みつけている娘が一人。「うーむ、 こんな田舎にくすぶっている場合じゃない!」 ぼさぼさの 短い髪、 そばかすの浮いた 低い鼻、 前掛けも付けずに 鍋の前に立っている姿は、 田舎にこそふさわしい。 そこは正真正銘、間違いなく田舎町の端っこ。 眞籠(まこも)国、虚空(こくう)州 端子(はしっこ)郡、 井中(いなか)町 大字(おおあざ)九咫烏(くたがらす)。 庭を元気に駆け回るニワトリ...
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マル子とペケ子のおとぎ話問答 浦島太郎編
ペケ子のボロアパートの ごみ溜めの如き部屋に、 ある日 マル子がやって来た。 近所の飲み屋で、 酔っぱらい同士として 偶然知り合った二人は、 飲み屋から遠ざかってからも、 たまに行き来をする付き合いが ズルズルと続いている。 友人なのかというと、 互いに微妙である。 知り合いに毛が生えた程度というところか。 マル子は 幼稚園の先生をしている。 ペケ子は 正体不明である。 マル子が言った。「子どもたちに、 ...
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犬派のねこまんま 20である byねこじゃらし
<電波な話> ある日のこと、 吾輩の中から、 一つの物語 が湧きあがってくるのを感じた。 出だしからクライマックスまで、 鮮やかに浮かび上がってきたのである。 特に、 クライマックスからエンディングにかけては、 想像するだけでも感動 できる良い話であった。 吾輩は すっかりその気になり、 原稿用紙を用意したのであった。 書く前から既に、物語は吾輩の中にほぼ出来上がっていた。 そうしたある晩のことである。 ...
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♪月夜のラプソディ
今日は一休みします。恥ずかしながらのオリジナル曲 月夜のラプソディ 月夜のラプソディ.mp3ついでに、おとめチックな歌詞も 月夜のラプソディ 月夜の晩には 紅茶をいれて 風が吹くまで 窓辺で待つの 何処かに咲いてるはずの 白い花の 唄が聞こえ出す スリッパ脱いで 片足上げて ふわり 自慢のフリルの...
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香美位山 六 (完)
「……」 戸惑いの沈黙は一瞬。 無遠慮な動きが、水と飯を奪い取った。「礼だ。 おかげで 私が為すべきことが見えた。 礼を言おう」 水を飲み、 握り飯に齧り付く闇に、 晴れやかな感謝を告げた。「近くに 土地神様はいないらしい。 私の願いは 届かぬらしい。 だから、 私が生まれ変わって土地神になり、 この地を護ることにする」「おめでたい事だ。 姫さんは 何故ここに居る。 何故光を奪われ、 闇の中に閉じ込められて、 ...
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香美位山 五
嘲笑う声が、楽しげに続けた。「教えてやろう。 何もできない。 ククク、 たくさんの『過去』が積み重なって、 『今』がある。 ゆがんだ、 あるいは間違った『過去』が しょうもない『今』を作っている。 そして、 いくつもの『今』が 未来を創る。 閉じ込められ、 身動きも自由にできないおまえの『今』が 何を作れると思うんだい? なーんにもできない。 クククク」「一理ある。 私は私の『過去』を 私に語ってみよう...
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香美位山 四
「………… さあ…… な、 …………………… わ、 …… わ す…… れ…… た」 とぎれとぎれの、頼りない音が答えた。「名は」「…………」「ないのか」「……………… あー るー」 それきり、 どちらも声を出さなくなった。 身動きする気配すら、 途絶えた。 いくばくかの時が過ぎ、 祈りを唱えようと思い立った姫が両手を合わせると、 再び 喉の渇きを思い出した。 しかし、 あるかなきかの心細い光さえもが、 何処にも残っていない 真の闇ばかりだった...
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香美位山 参
時の流れは 目に映らない。 特に 手がかりさえ無い闇の中では ことさらである。 どれほどの時が流れ去ったのか、 気がつけば、 辺りは 静けさに囲まれていた。 祈姫は 手探りで姿勢をただした。 出来ることは、 一つしかない。 静かに両手を合わせ、 土地神に届くようにと、 祈りをささげた。 開けても閉じても変わらないが、 いつもの習慣で 目は閉じた。 何処からか聞こえてきた、 ねぐらに帰るらしい鴉の声に、 わずか...
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香美位山 弐
南に座す香美位山(かみいやま)の中腹で、 儀式は行われた。 ぽっかり空いた 底知れぬ洞穴を塞いでいた岩が 取りよけられ、 朽ち果てんばかりに古びた 封印の印が外された。 領民でさえ、 いわれを忘れて久しい洞穴の前に立った祈姫は、 紛(まご)うかたなく 清らかで美しく、 また、 気高かった。 耳に馴染(なじ)みの無い 祝詞(のりと)に送られ、 気高き生贄は 謎の洞穴に消えた。 まん丸い二つの握り飯と、 水の入った三本...
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香美位山 壱 (短編)
それには 名前があった。 いつからなのかは 分からない。 誰が名づけたのかも 分からない。 それを生み出したものが 名付けたのか、 それを恐れたものたちか 呼んだのか、 あるいは、それ自身が 名乗ったのか。 闇と書いて ヒソカ。 それが奴の名前だった。 いづれにしても、 祝福された名前ではないことは、 容易に推察できる。 問われて名乗る機会がなかったとしても、 それが 奴の名前だった。 ...
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犬派のねこまんま 19である
<カラス何故吠える> 人間を犬派と猫派に分けると、 吾輩は紛れもなく 犬派 である。 その件については、 このブログで 再三再四 宣言したとおりである。 更に、 人間の子どもを 「シートン動物記」派 と 「ファーブル昆虫記」派 に分ければ、 吾輩は 「シートン動物記」派 であったことを 白状せねばなるまい。 近頃は、 無派閥が増えていると推察するが、 子どもというのは、 元来 生き物が好きだ。 否、 好きでなければ...
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くれないの影 あとがきのようなもの
「くれないの影」 を読んで下さった皆様、 ありがとうございます。 楽しんでいただけましたでしょうか。 だったら嬉しいです。 はじめは 「紅の影」 と漢字を使った題名でしたが、 平仮名にしました。 友人に見せたところ、 「ベニノカゲ」 と読まれてしまったことが 理由の一つ。 ジブリの「紅の豚」 と間違えられないように、 というのがもう一つ。 空を飛ばないし。 もっと面白い題名にできないものか と悩んだのですが、...
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くれないの影 第六章――10
「そういえば、 あの火事の時のことを まだ聞いていない」 鹿の子が みんなの顔を見回す。「付け火だったってことさ」 例によって 権佐が物音に気づき、 外を囲まれているのを知って、 掃き出し口からこっそり逃げた。 権佐は自慢の笛、 逸は短刀 というように 各々が 大事で身近な物を持ち出すのがせいぜいだったが、 非常事態にヘンなものを持ち出す人間は、 けっこう居るものだ。 隼人は 綱渡りの綱を持って逃げた。 ...
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くれないの影 第六章――9
波止女母子は、 すっかり風邪を引いてしまった。 藤伍の仕込んだ眠り薬で眠りこけ、 目覚めたのは 寒風の吹き込む縁側だったのだ。 やっと回復してみれば、 都からの使者が来ていた。 帝からの御赦しが出て、 綺羅君が朝廷に返り咲くという。 大いに慌てた。 使者は 赦免を伝えたばかりではなく、 丁重に都への帰還を願い出たのだ。 同時に、 治天の君が病に臥せったという報せが、 波止女家からもたらされた。 まだ さ...
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くれないの影 第六章――8
「あのう、 僭越ながら まだ納得がいきません」 気の抜けた 土岐野の声がする。「毎日運んでいたお膳は どうなったのでしょうか」 やけに現実的な問いを投げかけた。「ああ、 鴉の寿々芽が 毎日食べに通っておった」 綺羅君の答えに、 土岐野はますます混乱している。「鴉なのですか、 雀なのですか。 また 訳の分からないことを」「えーと、 寿々芽という名の 鴉だ」「そんなふざけた名前がありますか。 いい加減にしてくださ...
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くれないの影 第六章――7
紅王丸は、月の光に融けて…… 消えた。「ええーっ、 何? 何で消えちゃうの」 鹿の子が けたたましい声をあげる。 綺羅君が、 何事も無かったかのように てくてくと来て、 部屋に上がった。「すでに亡くなっている」 崩折れる白菊の体を、 陽映の逞しい腕が支える。「嘘ーっ! だって会ったもん。 話したもん。 笑ってくれたもん。 そんな訳ない」 鹿の子の声は 悲鳴に近い。「長く都に居ると、 霊には馴れてくるのだ。...
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くれないの影 第六章――6
頭目は、 しめた と内心ほくそえむ。 小僧が 格好をつけて飛んだのだろうが、 空中に浮く身体は 動きが読みやすい。 着地の寸前を切り付ければ かわせないはずだ。 狙いを定めて動く。「青いな…… な…… なにい!」 切り込んだ右腕が、 剣を握ったまま 消えた。 同時に襲い掛かった手下の首が 飛んだ。「…… 化け…… 物」 賊に勝ち目は残っていなかった。 紅王丸は、 鹿の子を守れば気が済んだとばかりに 乱闘には興味を示さ...
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くれないの影 第六章――5
闘いから離れた庭の奥、 金糸銀糸の衣装を身にまとい、 月の光を浴びて立つのは、 賊が目当てにする 綺羅君。 動く度に光が踊る。「やあ、 たんと現れたな」 のんきにキラキラ光っていた。 後発の面々は、 陽映たちを無視して綺羅君を目指し、 踊りかかった。「ぐえっ」「ぐわあー」 たどり着けずに、 先頭が倒れた。 綺羅君を背中に守るように、 十人ほどの黒装束が囲っている。 形成は逆転した。 頭目は 打つ手を求め...