カテゴリ:くれないの影のエントリー一覧
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くれないの影 あとがきのようなもの
「くれないの影」 を読んで下さった皆様、 ありがとうございます。 楽しんでいただけましたでしょうか。 だったら嬉しいです。 はじめは 「紅の影」 と漢字を使った題名でしたが、 平仮名にしました。 友人に見せたところ、 「ベニノカゲ」 と読まれてしまったことが 理由の一つ。 ジブリの「紅の豚」 と間違えられないように、 というのがもう一つ。 空を飛ばないし。 もっと面白い題名にできないものか と悩んだのですが、...
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くれないの影 第六章――10
「そういえば、 あの火事の時のことを まだ聞いていない」 鹿の子が みんなの顔を見回す。「付け火だったってことさ」 例によって 権佐が物音に気づき、 外を囲まれているのを知って、 掃き出し口からこっそり逃げた。 権佐は自慢の笛、 逸は短刀 というように 各々が 大事で身近な物を持ち出すのがせいぜいだったが、 非常事態にヘンなものを持ち出す人間は、 けっこう居るものだ。 隼人は 綱渡りの綱を持って逃げた。 ...
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くれないの影 第六章――9
波止女母子は、 すっかり風邪を引いてしまった。 藤伍の仕込んだ眠り薬で眠りこけ、 目覚めたのは 寒風の吹き込む縁側だったのだ。 やっと回復してみれば、 都からの使者が来ていた。 帝からの御赦しが出て、 綺羅君が朝廷に返り咲くという。 大いに慌てた。 使者は 赦免を伝えたばかりではなく、 丁重に都への帰還を願い出たのだ。 同時に、 治天の君が病に臥せったという報せが、 波止女家からもたらされた。 まだ さ...
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くれないの影 第六章――8
「あのう、 僭越ながら まだ納得がいきません」 気の抜けた 土岐野の声がする。「毎日運んでいたお膳は どうなったのでしょうか」 やけに現実的な問いを投げかけた。「ああ、 鴉の寿々芽が 毎日食べに通っておった」 綺羅君の答えに、 土岐野はますます混乱している。「鴉なのですか、 雀なのですか。 また 訳の分からないことを」「えーと、 寿々芽という名の 鴉だ」「そんなふざけた名前がありますか。 いい加減にしてくださ...
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くれないの影 第六章――7
紅王丸は、月の光に融けて…… 消えた。「ええーっ、 何? 何で消えちゃうの」 鹿の子が けたたましい声をあげる。 綺羅君が、 何事も無かったかのように てくてくと来て、 部屋に上がった。「すでに亡くなっている」 崩折れる白菊の体を、 陽映の逞しい腕が支える。「嘘ーっ! だって会ったもん。 話したもん。 笑ってくれたもん。 そんな訳ない」 鹿の子の声は 悲鳴に近い。「長く都に居ると、 霊には馴れてくるのだ。...
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くれないの影 第六章――6
頭目は、 しめた と内心ほくそえむ。 小僧が 格好をつけて飛んだのだろうが、 空中に浮く身体は 動きが読みやすい。 着地の寸前を切り付ければ かわせないはずだ。 狙いを定めて動く。「青いな…… な…… なにい!」 切り込んだ右腕が、 剣を握ったまま 消えた。 同時に襲い掛かった手下の首が 飛んだ。「…… 化け…… 物」 賊に勝ち目は残っていなかった。 紅王丸は、 鹿の子を守れば気が済んだとばかりに 乱闘には興味を示さ...
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くれないの影 第六章――5
闘いから離れた庭の奥、 金糸銀糸の衣装を身にまとい、 月の光を浴びて立つのは、 賊が目当てにする 綺羅君。 動く度に光が踊る。「やあ、 たんと現れたな」 のんきにキラキラ光っていた。 後発の面々は、 陽映たちを無視して綺羅君を目指し、 踊りかかった。「ぐえっ」「ぐわあー」 たどり着けずに、 先頭が倒れた。 綺羅君を背中に守るように、 十人ほどの黒装束が囲っている。 形成は逆転した。 頭目は 打つ手を求め...
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くれないの影 第六章――4
土岐野の声に驚いたのは、 賊ばかりではなかった。 鹿の子も驚いた。 話が違う。 その日の午後、 大きな荷物を抱えて こそこそと歩く隼人を見つけた鹿の子は 声をかけた。 荷物は、 たくさんの握り飯だった。 二つ分けてもらい、 夕飯には手をつけるな と注意され、 今夜 離れで騒ぎが起こると教えられた。 賊を離れにおびき寄せ、 一網打尽にする予定だったのだ。 鹿の子の部屋は、 その夜、 一座の面々の避難場所に...