カテゴリ:泣きわめく子どものエントリー一覧
-
泣きわめく子ども 7(完)
いさ子は号泣した。 廊下の真中で 泣きわめく子を見た級友たちは、 訳も分からずうろたえる。 女子の学級委員が、 皆におされて慰めにかかろうとした。「どうしたの? 大丈夫?」 泣き声が大きくなっただけだった。 困り果てた級友の何人かが、 「先生を呼んでこよう」と 駆けだす頃には、 他の教室からも、 泣き声に驚いた子どもたちが、 ぞくぞくと飛び出してきていた。 ぐるりと取り囲んで、 目を丸くする。 駆けつ...
-
泣きわめく子ども 6
恵比の授業は、 三年間の間に 段取りが出来上がっていた。 細かい指示をしなくても、 生徒たちは 段取りに従って動く。 いさ子は、 それが分からず、 たまに うろうろしてしまう。 その日、 国語の授業が新しい章に入った。「読んで、 読めない漢字があったら、 ノートに書きなさい」 いさ子は、 教科書で、 読めない漢字に出会うことがほとんどなかった。 月に一度、 書店から届く、子供向けの文学全集と漫画雑誌の各一冊...
-
泣きわめく子ども 5
いさ子は 教科書を開いた。 もらった教科書は、 お下がりとは思えないほど きれいだった。 新品の本を開いた時の感じがしないから、 誰かが使ったのだろうが、 どのページにも癖がなく、 シミ一つ無い。 自分では 絶対に手に入れられない本だと思った。 どんな上級生なのか知らないが、 元の持ち主に、 声をかけられなかったろう という気がした。 授業が始まった。 恵比先生が前よりも勢いよく、 授業を進めていき、 ...
-
泣きわめく子ども 4
学校に呼び出されたヒロは、 不機嫌だった。 面倒な事はご免だ。 いさ子が、 呼び出されるような不始末をしたのか という怯えもあった。 嫌々やってきた職員室で、 娘と並んで立つ前に、 バン と音高く教科書が投げ出された。「教科書を手に入れるおつもりが無いようなので、 私が知り合いの上級生に頼んで もらっておきました。 使ってください」 恵比は、 頭から角が生えそうなほどに睨んだ。「分団の上級生にもらいな...
-
泣きわめく子ども 3
小学校の敷地には 大きな段差があった。 山を切り崩して建てたのだろう。 真新しい校舎が二棟、 段差を挟んで建っている。 上の段にある 小さめの校舎には、 一年生から三年生までの教室がある。 下の段の 大きめな校舎は、 四年生から六年生までの教室になっている。 共に三階建で、 小さい校舎の一階と 大きい校舎の二階が 渡り廊下でつながれていた。 いさ子は、 大きい校舎に行ったことが、 まだほとんどない。 渡り...
-
泣きわめく子ども 2
いさ子が登校する朝になっても、 教科書は手に入っていなかった。 向こう三軒両隣に、 小学生を持つ家庭は無い。 そういう繋がりも無いようだった。 まだ、 近所づきあいを広げる余裕はない。 下の子を入れる幼稚園も探さなくてはならない。 田舎には、 幼稚園なんかはなから無かったから、 ヒロには勝手が分からない。「いさ子、 分団の上級生に頼んで、 教科書を譲ってもらいなさい」 新興住宅地には 様々な人間が集まっ...
-
泣きわめく子ども 1
ヒロは 自分の名前が嫌いだった。 マツ、 ウメ、 トヨ、 サト、 カタカナ二文字の名前は、 親戚にも、 近所にも 年寄りしかいない。 古臭い前時代的な名前を 憎んでさえいた。 勝手に子を付け、 寛子という漢字を当てて、 今風に名乗っている。 役所や公的な手続きで必要になる書類は、 全部夫が引き受けているから、 ヒロには何の問題もない。 今回、 夫の仕事の都合で、 雪深い田舎から 大都市の新興住宅地に引っ越すにあ...